森ビル株式会社

7.権利変換計画認可

1)権利変換計画

事業認可が下りて組合が設立されると、次のステップは権利変換計画の作成。平成8年に提示した個別権利変換の変換率を守る権利変換計画を作成しなければなりません。
個別権利変換率の算定は平成7年2月時点の財団法人日本不動産研究所の評価をベースとしており、評価基準日の平成11年(1999)5月16日時点での評価とは、ずれが出ていました。周辺土地価格は4年間で約4割低下しており、土地評価、従後床の価格構成や区分の仕方に知恵を絞らなければ変換率を守ることはできません。従前土地評価のダウンに見合う権利床価格の低減が必要なため、駐車場やDHC(地域冷暖房)の工事費、通損補償など、本体工事費以外の一定の事業費を保留床に負担させることによって、建物のグレードを下げることなく権利床価格を低減しました。これに伴い、駐車場やDHCの共有持分は権利床ではなく、保留床となりました。
権利床価格を低減し、保留床に事業費を転稼することによって、権利床と保留床の価格差が大きくなることから、効用比上説明がつく形とするために権利床と保留床を棟別や階層別に明確に区分する必要が出てきました。例えば、住宅についてはA、B、C、D4棟のうち、C棟1棟を保留床とし、オフィスタワーの六本木ヒルズ森タワーでは高層部を保留床としました。これによって、保留床を運営する参加組合員の保留床営業のフレキシビリティの確保や一括処分性による価値の増加を図り、変換率の確保と事業性確保の両立を図りました。
また、前述したようにこの地域には戸建権利者が多く、再開発後のマンション生活での管理費などのランニングコストの増加への不安が高かったです。この不安に対処するために居住用に取得する住宅の管理費を安定的に賄っていく仕組みを提案しました。管理費などを賄うための収益床を六本木ヒルズ森タワーの1フロアに設定し、その床を組合員が共有で取得し、そこを森ビルが長期のマスターリースで運営することとしました。この収益床は約120名が共有で取得することになりました。

2)収益床の集約と一括運用

一定額以上の従前資産を持つ組合員は自己使用住宅と収益用の床を取得することになります。収益用の床として住宅を取得するか、事務所の区画を取得するかそれぞれの組合員が選択することになりますが、当地区では賃貸収益の向上と安定化を図るために前述の管理費などを賄うための収益床同様、六本木ヒルズ森タワー5フロア(約22,000m²)の床をー区画とし、共有で取得する方式を提案した。この収益床は約150名が取得することになります。
共有資産は一体的、効率的な運用が図れるというメリットがある一方で、共有利形態特有の不安定さを抱えています。共有物の分割請求や、共有者の誰かが差押さえを受けた場合の対処などの六本木ヒルズのプロセス課題がありました。これを解消するために信託方式の導入を図ることにしましたが、一信託物件に対して120人、150人という数の共有者がいて、そのそれぞれに配当するという形は信託銀行も前例がなく、信託銀行との協議は行き詰まりまた。
そんな折、市街地再開発事業による施設建築物およびその敷地を民事信託により信託した場合の税制上の取り扱いが平成13年11月に明確になり、民事信託方式を導入することとなりました。共有者が出資する権利者法人を設立し、そこに民事信託を行うことで安定的な運用を行います。この共有者法人は建物竣工前に設立され、竣工以降から信託業務を開始しています。

3)床取得位置の調整

権利変換に関する様々なルールを定め、いよいよ床取得位置の調整。従前の土地・建物・資産価格を評価し、それぞれの組合員が取得する住宅の階数・位置、事務所の位置・面積、それぞれ従前の資産額に応じて従後に取得する床を決めていく作業が行われました。例えば住宅の取得位置については25階の南東の角部屋がいいのか、6階の西側の部屋がいいのか、狭くても高い位置をとりたいのか、低い位置で少しでも広くとりたいのか、それらの議論がそれぞれの家庭の中で行われました。住宅取得順位についての優先順位を決め、それぞれの住宅に関しての第一・二・三希望を出してもらい、それを調整して権利変換計画を組み上げました。調整がつかずに希望が重複すれば最後には抽選するしかありません。半年間に渡る大変難しい調整がありましたが、結果的に住宅に関して抽選が行われたのは1戸だけでした。また、土地の測量、建物調査、土地・建物調書の作成などが並行して行われていきました。
権利変換計画の縦覧は10月2日に実施されました。直前まで権利の移動や取得希望の変更があり、縦覧開始の朝は手伝いも含め事務局40名が徹夜でした。縦覧が終わり平成11年12月2日に権利変換計画の認可を申請しました。その当時は組合認可申請時と違い、平成10年7月の建設省通達により、再開発組合の設立認可に関しては概ね90日、権利変換計画の認可に関しては概ね60日を目安として認可を下ろすように手続きが変わっており、平成12年2月8日には権利変換計画の認可を得、2月13日が権利変換期日となりました。

4)仮住居

起工式・直会(平成12年4月27日)
起工式・直会(平成12年4月27日)

そこから権利者の仮住居への本格的な引越しが始まりました。仮住居を確保することも当地区の再開発においては大きな課題でした。当地区再開発は南側の住宅地を始め戸建て住宅が多く、主な住宅の広さは30坪前後でした。仮住居での戸建て住宅を六本木周辺で確保することは難しく、マンションになるが、六本木という立地上ワンルームや15坪程度の小規模なものが多く、30坪近くになると元麻布や広尾などのエリアの高級マンションになり、組合の補償費の基準の中では借りることが難しい。そこで、この再開発のデベロッパーである森ビルは、この六本木六丁目周辺・元麻布・西麻布に保有していた土地にマンションを建てて、再開発のための仮住居として提供することにしました。仮住居の建設は平成10年頃から始まり、平成12年(2000)初頭には4棟の仮住居が用意されていました。組合員の仮住居への引越しが平成12年3月中にほぼ終わり、平成12年4月27日に起工式を行いました。