森ビル株式会社

4.準備組合活動

1)準備組合の組織

準備組合の最高意思決定機関は総会だが役員として理事44名、監事2名を置きました。その人選は協議会の理事40名を基にしたものでした。ただし、44名の理事会では機動的な開催が難しいことから執行役員的に理事の中から常任理事13名を選任し組合運営にあたることとしました。事務局はテレビ朝日と森ビルの2社が務め、材木町の連絡事務所が準備組合事務所に定められました。
準備組合という全体の会が出来たといっても設立当時で215件という大所帯であり、全体での話し合いや情報交換を行うには単位が大きすぎるため、連絡部会という地区部会を作り定期的に情報交換や意見交換を行うことにしました。連絡部会の単位は材木町・桜田睦会部会、親和会・宮村部会、日ヶ窪住宅部会、秀和材木町レジデンス部会の4つでした。
また、再開発に関する様々な検討を進めるために専門研究委員会を設けました。
具体的には全体計画委員会・住宅計画委員会・権利変換計画委員会と3つの委員会を作り、権利変換計画委員会については参加希望者が多く、A班、B班の2つに分けて同じ内容を検討することになったため、実質4つの委員会が月に2回の会合を持って勉強会を進めていくことになりました。各委員会には世話人として担当理事がつき、委員会前には世話大会で委員会内容の事前打合せを持ったため、会合の回数は委員会数の2倍行いました。
また、準備組合発足前はテレビ朝日・森ビルで発行していた「ろくろくだより」は「六本木六丁目地区再開発準備組合会報(会報ろくろく)」として毎月発行することとなり、理事の中から編集委員を選任して編集委員会が毎週開催されました。
平均して週に2回の委員会の開催、その間に理事会・常任理事会などの役員会や編集委員会、地区単位での連絡部会もあるなど、週によっては毎日、委員会・連絡部会・理事会が連続するような忙しい期間が2年ほど続くことになります。この間、会合の日程調整、説明資料作り、欠席者への説明と事務局の作業も多忙を極めていました。

2)全体計画委員会

全体計画委員会では主に容積率についての検討、ゾーニングの検討、都市計画手続きについての勉強、施設計画案の検討を行いました。
都市計画決定で定められる内容や、再開発地区計画における容積率の考え方、事業推進基本計画で示されたゾーニングの考え方、交通計画の方針や考え方、商業施設、業務施設、文化施設、ホテル、住宅などの各施設計画などについて事例や港区の講習会の内容などを交えながら検討を進めていきました。

3)住宅計画委員会

恵比寿ガーデンプレイス見学会
恵比寿ガーデンプレイス見学会

住宅計画委員会の検討項目は住棟計画、付属施設やサービス、高齢者対応、防犯、防災、仕様・設備、管理・運営などであり、見学会やアンケートも行いました。
住宅計画委員会がまず行ったのは高層集合住宅の研究です。事業推進基本計画の中で住宅の整備目標として面積で90,000~93,000m²、戸数で750戸から800戸と、具体的な目標値が示されていたことから、この地区で住宅計画を考える場合に高層集合住宅の計画は避けて通れない。ところがもともとこの地区は木造戸建居住者が多く、マンション生活そのものも経験したことが無い人が多かった。集合住宅の研究と高層住宅の研究を並行して行っているような状況でした。
最初は事例研究。アークヒルズ、御殿山ヒルズ、西戸山タワーホームズ、大川端リバーシティなどの事例研究から入り、パークシティ新川崎、ベルパークシティ、スカイシティ南砂などを事例とした、ボイド型、センターコア型、Y型、V型などの住棟平面の違いによる特徴の整理などを進めていきました。
あわせて集合住宅の基本性能に関する遮音性能、防災設備、ガス厨房の安全性、高齢者住宅対応、給湯・冷暖房方式、集会所などの付帯設備、管理運営などについても勉強していきました。当時は、超高層マンションにおける幼児の発育への悪影響に関する研究が発表されたり、スカイシティ南砂の高層階火災が発生したりと、ただでさえ経験の無い高層集合住宅への不安が多い権利者にとって高層住宅アレルギーにさせるような話題が世間に多く、その不安を一つ一つ解きほぐして行くのが当初の課題でした。

4)権利変換計画委員会

権利変換計画委員会の検討項目は事業計画、権利変換の仕組み、権利評価の考え方、概算事業費の算定、施設建築物などの評価、権利変換基準の考え方、モデル権利変換などでした。
参考図書として「図解市街地再開発事業(監修・建設省住宅局市街地建築課)」を全員が購入し、カリキュラムを立てて勉強を進めていきました。
権利変換の仕組みや手続の流れから始まり、権利変換モデルの考え方、再開発事業における補償項目、再開発後の床価格の評価方法、事業費の考え方と権利床面積の関係、床効用比の考え方、建物の用途構成と権利床面積の関係、用途毎の権利変換モデルの検討と段階的に精度を上げながら検討を進め、平成3年(1991)12月10日、第16回委員会にて、一定の条件設定のもとで試算したモデル権利変換を発表しました。

5)港区主催勉強会

港区主催勉強会
港区主催勉強会

事業推進基本計画策定調査がまとまった後、港区は毎年六本木六丁目の調査予算を確保していきます。平成2年度が「市街地再開発事業に伴う交通施設基本計画調査」、地元に準備組合が出来ると、平成3年度から5年度にかけて「市街地再開発事業推進計画策定調査」を実施し、折々に港区主催の勉強会、説明会を開いて地元を啓蒙していきました。
平成3年3月7日と8日には準備組合事務所において「再開発事業の今後の進め方」をテーマに勉強会。3月13日には「六本木六丁目再開発と交通計画」についての勉強会が開かれました。勉強会の説明の最後に「六本木六丁目の再開発はその事業規模から世界最大級です。
これだけ大きなプロジェクトですから全員が100点満点にこだわって時間をかけるよりも60点の満足で早い時期の完成を目指し、完成後の生活を皆さんで楽しめるように進めることが良いと思います。」との講師の言葉は、巨大プロジェクトで地元の合意形成を図っていく上でのポイントをついた言葉として長く地元の人たちに記憶されることになります(しかし結果として森ビルも地元も100%を目指して努力しつづけるのですが)。
さらに港区は平成3年7月17日に麻布区民センターで「六本木六丁目地区再開発事業に関わる説明会」を開催。交通計画についてと、今後の進め方に関して説明が行われました。講師からは「当面の課題となる事業化計画案作成のためには、建築計画案と資全計画・権利変換モデル案などの検討を深めなくてはいけません」と、組合の課題、専門研究委員会の課題が明示されました。
平成4年(1992)2月27日には市街地再開発事業講習会として、「再開発事業における事業計画と権利変換の考え方について」とのテーマで港区主催の勉強会が準備組合事務所で行われました。

6)再開発区域の変更

当地区は再開発準備組合設立の後、開発範囲に関していくつかの変遷を辿ることになります。まず、もともと声掛けをしていた範囲が再開発準備組合設立後、一部拡大されています。
もともとの協議会・懇談会の範囲は南側においては玄碩坂と呼ばれる住宅地南端の道路を地区境としていた。「事業推進基本計画」の中でもその範囲でモデルプランが描かれていたが、玄碩坂南側の北向き斜面の住宅地が取り残されて住環境として好ましくないものになるということで、将来的にはこの地域も再開発をする地域として位置付けられました。港区主催勉強会の講師の話の中でも玄碩坂の道路勾配解消や谷部の解消のために南側に区域を拡大する考え方は述べられていました。
そこで、準備組合としては、その北側斜面地を次の再開発に残すか、現在の再開発の範囲を拡大して一体的に開発するか、選択を迫られることになりました。これに関しては、準備組合の中で意見が分かれました。4年間勉強会を続けてきて、やっと権利者の80%の同意を得て平成2年に準備組合を設立しました。また新たに範囲を広げることによって同意率が下がり、時間がかかることは多くの権利者にとって大きな問題でありました。-方で、再開発をするのであればこの際必要な範囲まで声を掛け、良好な都市環境を創ろうという声もありました。
南側の住宅地に範囲を広げるかどうかで権利者に言われたのが、「これ以上時間がかかるのは困る。拡大対象範囲の人が100%同意であれば範囲を広げてもいい。」ということです。そこでまず、南側の所有者に打診をし、半年ほどの間で全所有者の方に連絡を取りました。それにより約80%の方々から再開発に向かって賛成の意向を受けることが出来ました。結果的にそれまでの準備組合の設立と同じ同意率。 100%ではなかったので実際には未加入者が増えることになるが、この南側への範囲拡大は、さらにその南にある港区の旧保健所跡地につながり、地区を南北に縦断し、六本木と元麻布を結ぶ歩行者動線の実現を可能にするという都市計画的意義もあります。そこで準備組合として平成4年(1992)2月22日の第3回総会で範囲を南側に拡大することを決議しました。
一方、地区の南東端にあったタクシー会社とスウェーデンセンタービルに関しては単独建築の意向が強く、その2つを含む南東側敷地は準備組合の範囲から外れることになりました。
この範囲変更は平成4年10月31日の第4回総会で機関決定しています。
ただし、この再開発事業から外れることになった土地は、後にそれぞれの事情により所有者が変わり、最終的にその土地を両方とも森ビルが取得することになり、六本木ヒルズ竣工に先立ち平成13年(2001)7月、六本木ヒルズゲートタワーが竣工することになります。

準備組合の区域:平成2年12月15日 設立総会時の範囲
準備組合の区域:平成2年12月15日 設立総会時の範囲
平成4年2月22日第3回総会時(ピンク部分:追加された範囲)
平成4年2月22日第3回総会時(ピンク部分:追加された範囲)
平成4年10月31日第4回総会時(青部分:除外された範囲)
平成4年10月31日第4回総会時(青部分:除外された範囲)