今回は、六本木ヒルズの安定的な電力供給を縁の下で支える六本木エネルギーサービスの紹介と、東京電力への電力提供に関する技術的背景等について分かりやすく説明したいと思います。

六本木エネルギーサービスとは
六本木エネルギーサービスとは、六本木ヒルズを支える上で重要なエネルギーの内、ヒルズ内の各ビルで使われる電気と、冷暖房・給湯を行うのに必要な冷熱(冷水)と温熱(蒸気)の供給を、森タワーの地下にあるプラントから24時間365日に亘って行っている会社です。
会社の資本は森ビルの他、35%を東京ガスから出資を仰いでおります。従業員数は社長含めて全部で33名(内19名は運転管理の委託社員)です。

事業区分としては二つの事業に分けられ、共に国の認可を受けた公益事業として、それぞれの法律に基づき営業を行なっています。

・電気の発電と供給をする「特定電気事業」
六本木ヒルズ各棟(テレビ朝日スタジオ棟を除く)への電気の供給、特にレジデンスについては住宅専用部の各戸のお客様とも直接契約を行なっており、毎月の電気検針と請求業務も行なっています。
業務の質や供給責任なども東京電力とほぼ同じで、発電能力や供給箇所が極めて小さな電力会社と言ったイメージでしょうか。

・冷熱・温熱等を供給する「熱供給事業(地域冷暖房システム)」
熱供給事業とは、一般的に「地域冷暖房」と呼ばれるもので、一定地域内の建物群に対して、蒸気・温水・冷水等の熱媒を熱源プラントから導管を通じて供給する事業のことを言います。
国の熱供給事業法に基づいて行なっている事業所は全国で143箇所、会社数では84社もあり、当社もその一つです。導入例を挙げれば、新宿副都心地区や新橋の汐留地区、みなとみらい地区等が有名なところでしょうか。ビル毎にボイラや冷凍機を置いて必要な熱を造るのではなく、地域一体で熱源設備を集約して効率の良い運転が可能となり、設備設置スペースの効率化もメリットに挙げられています。

大規模ガスコージェネレーションシステムについて

「コージェネレーション」とは、発電と共に発生した熱も利用することを言います。
発電は都市ガス(天然ガス)を燃料にして、ガスタービン発電機で行なっており、その時に出る排熱を蒸気として取り出し、熱供給施設へ送り、全量を冷熱、温熱として利用しています。通常の発電所は原子力発電所も含め、この排熱を海に捨てており、この差がエネルギーの有効利用ということになるわけです。

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ガスタービン発電装置

導入の経緯

エネルギーシステム導入の検討に際しては、優れた省エネルギーシステムであることが大前提となっていました。冷暖房では、地域冷暖房システムを中心として当時から主流になっていた「コージェネレーションシステム」を導入する方向で検討が進んでいました。
平成7年の電気事業法の改正(規制緩和)により、複数のビルの電気供給を、一般電気事業者(東京電力他)から独立して、全ての使用電力を発電電力で賄うことが可能になりました。そのため、コージェネレーションシステムの規模を最大まで広げ、全量発電へと舵を切り、特定電気事業を行なう決断をしました。
導入に際し、大幅な省エネルギーシステムの導入と自社による安価な電力の入手の目的の他に、重要視したのは『どんな場合においても電力の安定的利用環境を確保すること』でした。
安全な街づくりの一環として、東京の直下型震災にも対応した電源のバックアップシステムを採用し、非常時にも安定した電力供給が可能なシステムを構築しました。これは近年のITオフィス需要の高まりに対しての備えとしては、重要な要素であり、六本木ヒルズが先進的な事例となりました。

発電の方法・能力

発電施設には、都市ガスを燃焼させて、そのエネルギーで発電を行なうガスタービン発電装置が6台(6,360kw/台)あり、夏場の日中は6台すべて稼動しています。
発電電力量は6台フル稼働時で、最大で約38,660kw(外気温度により発電能力が変動:外気0℃時)の出力が可能です。東京電力の発電所の発電能力からすると小さく見えますが、都心の真ん中にある発電所としては価値があるといっていいでしょう。
ガスタービンのエンジンはジェット機のエンジンとほぼ同じもので、ジェット機がケロシン(灯油)を燃焼させてその推力で飛ぶ代わりに、ここでは天然ガスを燃やしてその推力で発電機を回し、発電しています。
ヒルズの電気需要の増減に伴って発電機の運転台数を制御し、過不足がないよう管理しています。

安定した電力供給を支えるシステムとは?

通常時は都市ガスを燃料として発電しています。六本木ヒルズのガスの配管系統は、「中圧ガス管」といって、一般の家庭用の「低圧ガス管」と違い、震度7クラスにも耐える丈夫なものです。大震災でもガスの供給は止まらない想定(東京ガス談)です。
さらに、以下ニ重のバックアップシステムにより、非常に安定した電力供給システムが構築されています。

万一の機器故障などによる電力不足に備え、ガスでの発電が難しくなった場合は、東京電力との系統の接続により瞬時に不足する電力が入り、停電等を起こさないシステムになっています。逆に東京電力が停電になった場合は、瞬時に接続を切り離してヒルズ側に影響がないようになっています。
最後の補償として、非常用の発電燃料として多量の灯油を、ヒルズ内に備蓄しています。これで最低3日間は震災時に必要な電力分(保安電力)を維持できるようになっています。

熱供給の方法

熱供給施設では、暖房・給湯用の蒸気は発電所から来る排熱蒸気を優先的に利用し、不足分を専用のガスボイラで追い炊きして補った上、直接蒸気を各棟へ配管を通して供給しています。
冷熱は発生用冷凍機に蒸気を入れると約6℃の冷水を取り出せる吸収式冷凍機を全台に採用して、排熱の有効利用が図れる設計になっています。この冷水をポンプで各棟へ送り、ビル内の空調器で冷房に使用された後、だいたい13℃ぐらいでプラントに返送され、循環利用されます。
また、冷凍機内の熱サイクルを回すために外気に排熱を捨てる役割の冷却塔(ホテル棟のセットバック屋上に設置)は、多量の上水を使用する施設です。そこでヒルズ内に降った雨水の多くを集めて、この冷却水補給水の一部(約20%ほど)に使ってヒルズ全体での節水を図っています。

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電力供給システム

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中水・雨水の再利用

環境面でのメリット

電気と熱を一体的に製造・活用することで、エネルギーの効率利用を達成しています。これにより、省エネルギー率で16%、CO2で18%の削減(19年度実績で個別熱源と東電電力購入の場合との比較推定値)を行なっています。
また、大気汚染の元であるNOX(窒素酸化物)の排出については、ガスタービンの脱硝装置や低NOXボイラの採用により、42%の削減を達成しています。

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エネルギー削減率

東京電力への電力提供について

今回の東京電力管内での計画停電等の大変な事態を踏まえて、3月18日より森ビルと当社から東京電力へ申し出を行い、電力提供を行っています。5月以降は東京電力の供給が確保されたため、提供は4月末で一旦休止しますが、需給が逼迫する夏期に要請があれば再開予定です。
現在の提供量は昼間(7時~22時)は4,000kw、夜間(22時~7時)3,000kw。これは六本木ヒルズのお客様も含めた皆さまの節電努力分と、当社の発電余剰分とを合わせた量です。
コージェネレーションを採用している工場やビルは比較的多くありますが、どこでも逆送電が可能なわけではありません。当社のように東京電力と系統連携し、いつでも電気の出入りが可能な制御管理できるメーター等の装置を装備していないと無理なのです。

工場等を中心に大規模なコージェネレーションの採用事例はありますが、一般需要への熱供給と電力供給を合わせたこれだけの規模の実施事例は、他にないと言ってよいでしょう。

 

ニュースリリース:東京電力に六本木ヒルズ発電設備の電力を提供
MORINOW:東京電力に六本木ヒルズの発電電力約1,100世帯分を提供