六本木ヒルズに来ていただくと、森タワーエントランス前の「66プラザ」に、今にも動き出しそうな大きな馬車が登場しているのが目に入ります。
グザヴィエ・ヴェイヤン《四輪馬車》2010年
Courtesy: Galerie Emmanuel Perrotin, Paris
撮影: 渡邉 修/写真提供: 森美術館
©ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011
実はこれ、森美術館で開催中の「フレンチ・ウィンドウ展」に展示されている作品の一つなのです。
「フレンチ・ウィンドウ展」は、フランスの最先鋭の現代アートを紹介する展覧会で、現代アートの父と呼ばれるマルセル・デュシャンの名を冠し、1年で最も活躍したフランス在住のアーティストに贈られる「マルセル・デュシャン賞」を受賞、もしくはノミネートされたアーティストの作品を展示しています。
現代アートの父 マルセル・デュシャン
森タワー53Fの森美術館のギャラリーに足を踏み入れた瞬間、一瞬戸惑うかもしれません。「男性用の便器」や「窓」など、日常よく見かけるものが並んでいるのです。
この作品を発表したのは、1887年生まれのフランス人、マルセル・デュシャン。現代アートの父とも言われている人です。彼は日用品にサインをして、そのまま展示してしまうという革新的な表現をしました。
ちなみに何とサインは偽名。便器の題名は「泉」という、なんだかちょっと、想像力をかきたてられ、深い意味を感じる名前がついています。
現代アートは分かりづらいという印象をもつ方も多くいらっしゃいます。ただ、現代アートには必ずしも正解が存在するわけではありません。当時「泉」は「こんな物がアートか」と批判され物議をかもしましたが、デュシャンは「自分の手で作品を作ったかどうかではなく、それを選んだことが重要である」と反論しました。「アートは見る人がいて初めて成立する」という彼の言葉からもわかるように、私達作品を観る人それぞれが作品を通して新たな発想をもつことができる のも現代アートの楽しみ方の一つです。
展覧会の名前の由来となった「フレッシュ・ウィドウ」
「便器」の向かいには、「窓」の作品があります。これは、「フレッシュ・ウィドウ」という作品です。
アメリカでは、床面まである両開きのガラス窓のことを俗に「French Window(フランス窓)」と呼んでいますが、デュシャンは言葉遊びとしてこの作品を「フレッシュ・ウィドウ(なりたての未亡人)」と名づけました。窓であるにも関わらずガラスが真っ黒の皮で覆われ向こう側を見通すことができません。
今回の展覧会のタイトル「フレンチ・ウィンドウ」は、この作品に着想を得たものです。窓は、部屋の外と内側をつなぐ役割をしていますが、この展覧会で 「窓」をキーワードに見えてくる現代フランスの風景、人間のこころの内と外についても考えることができるのではないでしょうか。
フレンチ・ウィンドウ展では、デュシャン本人の作品だけではなく、この10年間特に活躍したフランスの現代アーティスト27名の作品を一挙に公開しています。
日常生活や時間、都市の心象風景を独創的に表現した“フランス現代アートの今”を、是非ご体感下さい。

サーダン・アフィフ《どくろ》2008年
国立現代美術基金(FNAC)蔵、パリ
撮影: 渡邉 修/写真提供: 森美術館

クロード・クロスキー《フラット・ワールド》2011年
Courtesy: Galerie Laurent Godin,
Paris and Galerie Mehdi Chouakri, Berlin
撮影: 渡邉 修/写真提供: 森美術館