森ビル株式会社

世界の子供たちとリズムを刻む理由(第5回)

2008年08月05日

今月のゲスト:ミュージシャン 渡辺貞夫さん

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世界中を飛び回り、世界中の人々に音楽の素晴らしさを伝えるミュージシャン渡辺貞夫。六本木という場所に居を構え、30年以上経つ、正真正銘の六本人である。彼の語る、音楽と都市、そして子供たち。六本木が音の聞こえる街になればと願いをこめて。

第5回 音楽の土台は「リズム」

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中・高生ビッグバンドフェスティバルで 共演する学生達との練習風景

僕は本当にせっかちでね。若いころなんてステージで演奏していると、リズミックに走っちゃうんですよ。興奮しているのか、先走ってしまって。それで、「あっ、しまった」とリズム体がついてくるのを待ったりしました。自分自身のそういう欠点がありますから、リズムが非常に大切だということを痛感しています。
音楽の土台はリズムです。それがしっかりしていないと、どんな音楽も上っ面、上っ調子になってしまって、落ち着いたものにはならないんです。特に僕たちのやっている音楽は非常にリズムが大切です。日本ではリズム教育が全く「ない」と言っていいくらい「ない」ですね。全国にブラスバンドがありますが、メロディックな練習は一生懸命やりますが、そこにいるリズム体というのは結構弱いんですよね。土台が弱いのではしょうがない、そういう思いが随分昔からありました。全員でリズムに浸る体験を小さい時にしたらいいんじゃないかと、リオのカーニバルを聞いたときに思ったんです。それが子どもの音楽教育をスタートした理由です。まあ、僕自身も一緒になってリズムの練習になりますしね。

「リズム」に浸る体験を子ども達に

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サラゴサ国際博覧会で共演する子供達との練習風景

例えば太鼓にしても、たたけば音が出るでしょ。そうすると、割と小手先で済んでしまうようなところがあって、非常に軽いものになってしまうんです。ですから、何でも基本、特にリズムが大切なのです。僕たちの言葉でいうグルーヴ感とか、リズムに浸った時の楽しさというのを知らなければいけないと思うんですよ。
アフリカだと、1つのリズムを一晩中やっていますからね。やっぱりリズムが生きていれば疲れないし、楽しめる。そして、みんなが一緒に一体感を感じることができるんです。僕らが「乗った」とか「ご機嫌だった」という感覚がグルーヴ感なんですが、それに浸ったときの気分というのは、本当にいいものなんです。
ですから、子どもたちには、僕は結構しつこく同じリズムを練習させるのですけど、それこそ「股ずれしちゃった」とか「手の皮がむけて血が出ちゃいました」なんてニコニコ笑っている子もいますしね。でも夢中になっちゃうと、それも忘れてしまうんです。
日本も昔は、みんなで一緒にリズムを楽しむ状況はたくさんあったと思うのです。例えば、神輿を担ぐのだって、みんなの息が合わなければ楽しくないですし、盆踊りもみんなで一緒になってリズムに浸るわけです。でも今は、みんなが一緒になってひとつのことを仕上げ、ひとつのことを楽しむという状況があまりなくなってきてしまった。時代の流れで仕方がないことなのかもしれないですが、だからこそみんなで一緒になって1つのリズムを楽しむ状況が必要だと思うんです。実践している人たちもたくさんいることは分かるのですが、それがまだあまり見えてこないですよね。

東京でももっと気軽に音楽を

東京ぐらい、色々な国の音楽が聞ける場所はないんじゃないかな。ニューヨークなんかもそうですが、外国のアーティストもよく来ていますよね。ただ日本はアーティストが飛行機で来る関係で、クラブでも入場料が高いのが問題ですよね。もっと安ければいいんですけれど。アメリカだとジャズクラブに僕らが行って、一番高いアーティストが演奏しても、一晩25ドルくらいなんです。ですから気楽にクラブに行けるじゃないですか。ところが日本では1万円となると、高くて行けないですよね。東京だけじゃなくて、他の街にしてもやはり高く、その辺りが日本のひとつのデメリットだと思います。東京も、もっと気楽に、理想的にはニューオリンズのように、街を歩いているとクラブの中から音が聞こえてくるような、そんな街になればいいと思うんですけれどね。

プロフール

1933年、栃木県生まれ。高校卒業後、上京。アルトサックス・プレイヤーとして数多くのバンドのセッションを経て、1962年米国ボストンのバークリー音楽院に留学。
日本を代表するトップミュージシャンとしてジャズの枠に留まらない独自の音楽性で世界を舞台に活躍。写真家としての才能も認められ6冊の写真集を出版。2005年愛知万博では政府出展事業の総合監督を務め、音楽を通して世界平和のメッセージを提唱。