戦争や自然災害など世界各地で混迷や不安が拡がるなか、さまざまな政治や社会の現状、再考された歴史は現代アート作品にも明らかに投影され、批評性の高い表現が多く見られます。森美術館でも世界各地の多様な視点を通した現代アートを紹介していますが、私たちが異なる文化に出会い、差異を学び、他者を想像することは、複数の価値観が共存するために極めて重要だと考えています。一方で、多様性を理解しながらも、あらゆる文化に通底する普遍性や人間性を考える必要性も感じています。森美術館の2026年度の企画展では、人間とは何か、感情とは何か、我々はどこから来て、どこへ向かうのか、といった根源的な問いを、あらためて考えてみたいと思います。

2026年4月末からはロン・ミュエクの個展を開催。スーパーリアルな人間の彫刻で世界的に知られる、ロン・ミュエクの作品は、新生児から老人まであらゆる年齢や性別の人体像が、ときに小さく、ときに巨大なスケールで表現されますが、そこでは人類に共通する孤独、不安、老いへの恐れといった感情が見事に描写されています。また10月末からは森万里子の個展を開催。1990年代にSFや日本の大衆文化の世界観を自ら演じたパフォーマンスや写真作品で注目された森万里子は、その後、世界各地の古代哲学、宗教観、精神世界などを探求しながら、国や文化の境界を超越して人々が繋がる「Oneness(ワンネス)」の概念を作品化してきました。

ヒューマニティー、すなわち人間性や人類について、その意味を掘り下げ、同時に壮大な宇宙の神秘を考えさせる2つの大規模個展に、どうぞご期待ください。

森美術館 館長 片岡真実

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