パンデミックや戦争は世界各地で社会の綻びを明らかにし、私たちの感情を揺さぶってきました。森美術館は、現代美術館として引き続き世界の歴史、社会、価値観の多様性を映し出しながら、なお、私たちが共に生きるために何ができるのかを問いたいと考え、2024年度には2本の大規模個展「シアスター・ゲイツ展」、「ルイーズ・ブルジョワ展」を開催します。

米国シカゴを拠点に活動するシアスター・ゲイツ(1973年~)は、都市デザインと陶芸などを学び、彫刻、インスタレーション、地域再生プロジェクトなどジャンルを横断する活動で世界の現代アート界から高く評価されています。近年は「アフロ民藝」というコンセプトで、ブラック・カルチャーと日本文化の接続を試み、また、国際芸術祭「あいち2022」では、自身が20年前に陶芸を学んだ常滑市で旧丸利陶管の住宅部分を改装し、インスタレーションとして展示しました。アジア初の大規模個展となる今回の個展では、シカゴ・常滑・東京を繋ぎ、ゲイツ芸術の全貌を明らかにします。

六本木ヒルズの蜘蛛の彫刻《ママン》で知られるルイーズ・ブルジョワ(1911~2010年)。日本における大規模な個展は、1997年以来27年ぶりです。1938年にパリからニューヨークに移住したブルジョワは、近年再評価が高まる女性アーティストのパイオニアとして、また、20世紀を代表する彫刻家として歴史にその名を刻んでいます。愛情、嫉妬、怒り、不安など多様な感情が絡み合う彼女の実践は、今日の私たちの心にも強く響きます。

この2本の展覧会が、社会の綻びを繕い、人々の心を繋げる、回復や再生のためのエネルギーを私たちにもたらしてくれることを願っています。

森美術館 館長 片岡真実

230810_1.jpg