森美術館は、2021年10月1日付で、インディペンデント・キュレーターのマーティン・ゲルマン氏をアジャンクト・キュレーターとして迎えました。
ゲルマン氏は、ドイツ、ベルギーを中心に、これまで数々の展覧会でキュレーションを手掛けてきました。また、かねてよりアジア圏のアーティストにも注目し、自身の展覧会企画でも積極的に紹介してきたキュレーターです。現在、森美術館で開催中の「アナザーエナジー展」でも共同キュレーターを務め、コロナ禍の渡航制限のなか、欧州拠点のアーティストのリサーチや出展作品の調整を担当し、展覧会の実現に大きく貢献しました。この度のアジャンクト・キュレーター就任を受け、森美術館では2023年以降の展覧会で企画を担当します。
アジャンクト・キュレーターとは、非常勤のキュレーターです。コロナ禍の移動制限以降、必ずしも美術館が位置する都市を拠点とせず、リモート環境で業務を行うモデルとして海外の美術館でも導入の事例が見られます。森美術館でも、移動制限のなかで国際性を持続する策、さらにはサステナビリティを考慮したキュレーションのモデルとして、今後の可能性に期待できると考えています。
就任にあたり、ゲルマン氏は次のように語っています。

「森美術館の一員として、アジャンクト・キュレーターを務めることになり、大変光栄に思います。いま、まさに時代が直面している社会的倫理や環境をめぐる課題は、共生、発展、そして共有の原理に基づく、グローバルで新しい視点を必要としています。そのような状況にあって、森美術館がミッションに掲げる『アート+ライフ』の実現に寄与することは急務であると考えています。また、世界を牽引する学際的な美術館のひとつである森美術館に、私がアジャンクト・キュレーターとして携わることが、これからの協働のかたちを探るうえで『国際性』についてあらためて考える一助となれば幸いです。」

ゲルマン氏の起用にあたり、館長の片岡は次のように語っています。

「『アナザーエナジー展』を共同キュレーションしたゲルマン氏が、引き続き森美術館のアジャンクト・キュレーターとして欧州を中心とした知見とネットワークを共有してくれることに、大きく期待しています。『世界』はさまざまなローカルの集まりです。現代美術館が多様な世界を投影していくためには、多様な地域からの異なる視座が求められます。コロナ以前より組織の国際化を検討していましたが、コロナ禍による移動制限とリモート業務の加速は、さまざまなローカルを繋ぐ可能性を明らかにしてくれました。こうした人材を通して、日本やアジアのアーティストと他の地域との交流もますます盛んになることを願っています。」

美術館の存在意義が問われている今、国際性と現代性を追求する森美術館は、アジャンクト・キュレーターの起用により、未来を見据え、持続可能な美術館運営を目指します。

211110_1.jpg

マーティン・ゲルマン
1974年生まれ。ドイツ、ケルン在住。ベルリンとポツダムで就学後、第3回および第4回ベルリン現代美術ビエンナーレ(2003-2004年/2005-2006年)に携わる。2008-2012年にはケストナー・ゲゼルシャフト(ハノーバー)にてキュレーター。また、2012年より2019年までゲント現代美術館(ベルギー)のシニア・キュレーターとして数々の個展、グループ展、コレクション展を企画、同館の主要な収蔵品の収集にも寄与。直近では、森美術館「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」(2021年)で共同キュレーター、国立台湾美術館でのトーマス・ルフの大規模個展(2021年、台中)のキュレーター。また、国際芸術祭「あいち2022」キュレトリアル・アドバイザーも務める。リリ・デュジュリー個展「時のひだ」(2015年、オーステンデのミュ・ゼーとの共催)企画でベルギーの最優秀展覧会に贈られるAICA賞を受賞。