MAMコレクション011:横溝 静+松川朋奈-私たちが生きる、それぞれの時間

出展作家:横溝 静、松川朋奈
企画:德山拓一(森美術館アソシエイト・キュレーター)

本展では、さまざまな女性たちの私的な日常を描いた、2人の女性アーティストの作品を紹介します。横溝静の
映像作品《永遠に、そしてふたたび》(2003年)は、引退したイギリス人のピアニスト4人が、自宅でショパンの「ワルツ第10番」を演奏する様子を映し、彼女たちが生きてきた時間を想起させます。一方、松川朋奈の絵画作品は、作家自身と同世代の六本木で働く女性たちへのインタビューをもとに、リアルな日常を断片的に描写することで、そこに潜む彼女たちの不安や悲しみなどの内面を写し出します。
イギリスと日本、文化も世代も全く異なる女性たちに寄り添うアーティストの親密な眼差しを通して、現代社会で生きることを見つめ直す機会となるでしょう。

MAMスクリーン012:チェン・ジエレン(陳界仁)

企画:矢作 学(森美術館アシスタント・キュレーター)

チェン・ジエレンの映像作品は、経済的に困窮している労働者や失業者、移民、アクティビストなどと協働で制作され、台湾社会の周縁に生きる人々の心傷や苦境を、アーカイブ映像とフィクションを織り交ぜながら描きます。日本植民地時代に建設されたハンセン病棟や、かつての台湾経済を支えた工場の跡地など、歴代政権の建築的遺産で実際に撮影された作品は、さまざまな統治のあり方に翻弄される人々の姿を明らかにし、忘れ去られた過去を未完の対話として現在に蘇らせるものです。
前期・後期で構成される当プログラムでは、森美術館が所蔵する《工場》と《ルート》を含む、チェンの初期作品から近作までを紹介します。

MAMプロジェクト027:タラ・マダニ

企画:椿 玲子(森美術館キュレーター)

タラ・マダニは、イランと米国という二つの文化的背景を持ち、急速なグローバル化が進む現代社会を批評する風刺的な作風で国際的に活躍しています。本展では、新作を含む絵画と映像作品を日本で初めて紹介します。
マダニの作品には、下腹が出て頭髪が薄くなった中年男性がしばしば登場します。子どもじみたふるまいや、邪険に扱われるその姿は、男性優位社会の危機を示唆しているかのようです。また「くそママ」シリーズ(2019年-)では、排泄物でできた母親と戯れる赤ん坊が登場し、典型的な母と子のイメージを破壊します。他にも、モダニズムを表象するグリッド、権力構造や集団心理が生み出す暴力、人間の動物的本能など、いずれのイメージも西欧中心主義的な社会への痛烈な皮肉と捉えることができます。
合理主義的な規範から逸脱する人間の根源的な本質に光を当て、わたしたちの倫理観に鋭く切り込む作品群は、多文化主義が唱える他者への寛容性について、あらためて考えるきっかけとなるでしょう。