森ビル株式会社が運営する森美術館は、2020年1月1日付けで館長の交代を実施いたします。現館長南條史生が退任し森美術館の特別顧問に、新館長には、現副館長兼チーフ・キュレーターの片岡真実が就任いたします。

南條史生は、2006年11月、初代館長のデヴィッド・エリオットの後任として就任し、以来13年にわたり森美術館を率いてきました。在任中は国内外のネットワークや業績を発展させ、森美術館は国際的にも高い評価を得、その存在は確固たるものになりました。なお、南條は退任後、当館の特別顧問に就任します。
南條の任を引き継ぐ片岡真実は、キュレーターとしても数多くの実績を重ね、2018年にはシドニー・ビエンナーレの芸術監督を務めるなど、国際的に活躍しています。多様性の時代、日本ではまだ数少ない女性館長として手腕を発揮することが期待されています。
東京が世界から高い注目を集める2020年、森美術館は新たな体制のもと、理念である「国際性」と「現代性」を掲げ、大きな変革の波が渦巻く現代の国際社会において、現代美術館としての使命を果たすべく、さらに邁進してまいります。

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【片岡真実(かたおか・まみ)略歴】
1965年愛知県生まれ。ニッセイ基礎研究所都市開発部、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館。2009年よりチーフ・キュレーター、2018年10月より副館長兼チーフ・キュレーター。2007~2009年はヘイワード・ギャラリー(ロンドン)にて、インターナショナル・キュレーターを兼務。第9回光州ビエンナーレ(2012年)共同芸術監督。第21回シドニー・ビエンナーレ芸術監督(2018年)。CIMAM(国際美術館会議)理事、京都造形芸術大学大学院教授。
森美術館で手掛けた主な展覧会として、アイ・ウェイウェイ(2009年)、会田誠(2012年)、N・S・ハルシャ(2017年)、塩田千春(2019年)など、日本及びアジアの中堅作家の個展。日本の現代アートシーンを紹介するシリーズ展「六本木クロッシング展」の共同企画(2004年/2013年)。テーマ展では「笑い展:現代アートにみる『おかしみ』の事情」(2007年)、地域展として「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現代まで」の共同企画(2017年)。
その他、日本及びアジアの現代アートを中心に執筆・講演等多数。

 

館長交代に寄せて

森美術館 理事長
森 佳子

2003年にオープンした六本木ヒルズのコンセプトは文化都心です。文化が都市づくりの磁力になると考えたからでした。そしてそのシンボルとして創設者の森稔は森タワー最上層の53階に森美術館をつくりました。
森美術館は現代性と国際性をミッションに掲げ、初代館長に英国人のデヴィッド・エリオット氏を招聘し美術館のグローバルスタンダード(世界基準)を目指し、また彼の持つ世界とつながった豊かな人的ネットワークを通して美術館の基礎を作り上げました。

2006年にはエリオット氏から南條史生氏が二代目館長に就任し、森美術館はさらなる発展と確立の時代に入りました。1年に3本弱の割合で開催する森美術館の展覧会はアーティストの「個展」のほか、一つの主題を掘り下げた「テーマ展」、世界の特定の地域のアートの動向を紹介する「地域展」、都市・建築の新旧を紹介する「建築展」、そして3年に一度日本の現代アートシーンを紹介する「六本木クロッシング展」という構成で南條館長のリーダーシップのもと常に新しい刺激と活力に満ちた視点を提供し続けてきました。展覧会の国際巡回も数を重ね、また日本、アジア中心の作品のコレクションも少しずつ増えています。13年間南條館長によって築き上げられたネットワークや業績は国内外ともに高い評価を得、森美術館はここにアジアを代表する現代美術館としてゆるぎない存在になりました。

森美術館ではこのような状況を踏まえ、今後のさらなる発展を目指して新たなステージに進むため2020年1月1日に館長交代をすることといたしました。新しい館長には森美術館創立時から在籍し、南條館長のもとで副館長兼チーフ・キュレーターとして美術館を支えてきました片岡真実が務めます。片岡真実はすでに海外にも広いネットワークを持ち2018年度にはシドニー・ビエンナーレの芸術監督を務めるなどキュレーターとして広い視野と高い能力を有していますが、今後は館長として組織をまとめていくことにさらなる手腕を発揮してくれることを期待しています。森美術館としての根幹は今までの路線の上に置きながらも、変化する時代をとらえて新機軸を打ち出し、世界に通用する美術館であり続けるためには何が必要かを問い続けていきたいと思います。

なお、南條館長には2020年以降も当館の特別顧問として引き続き活動していただくこととしております。
今後とも森美術館へのご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 

退任にあたって

森美術館 館長
南條史生

私は2002年に森美術館の副館長職として開館準備メンバーに加わり、初代館長デヴィッド・エリオットを補佐して2003年の開館に参加し、その後2006年に館長に就任いたしました。以来、当館創設者故・森稔会長、森佳子理事長の下で、「国際性」と「現代性」をミッションに掲げ、世界に開かれた現代美術館を実現するべく努力してまいりました。

そして、昨年の開館15周年という節目の年を経て、当館のさらなる発展のため新しい館長にバトンタッチする時が来ました。第三代館長には現在森美術館の副館長である片岡真実が就任いたします。女性が活躍する時代に、日本でも数少ない女性館長として、また国際的に最も活躍している日本人キュレーターの一人として、森美術館の次の時代を築き上げてくれるものと確信いたします。

森美術館は、「アート&ライフ」をモットーとして、アートを生活に近づけ、現代美術をより多くの人々に身近なものにするために多様なプログラムを展開してきました。そして今日国際的にもよくその存在を知られるようになり、世界の多くの美術館と対等な関係を築くにいたりました。このような美術館のあり方は日本という国の資産の一つとして、今後も大事に育てていってほしいと思います。
一方で近年の社会・文化環境の変化には著しいものがあります。我々は18世紀頃にヨーロッパに端を発した「近代」という企図が終焉し、世界観の根源的な変革がおこる前夜にたたずんでいます。その変革は美術や美術館の再定義を促し、さらに都市・社会・経済のシステムを変え、人間の生きる目的を問うことになるでしょう。私が森美術館で最後に組織する展覧会が「未来と芸術展」であることは、極めて意義深いと思います。

なお、2020年1月1日からは森美術館特別顧問として森美術館に諸般のアドヴァイスをして行くこととなります。引き続き皆様とお会いする機会があると思いますので、よろしくお願い申し上げます。

 

次期館長就任にあたって

森美術館副館長兼チーフ・キュレーター
片岡真実

2020年1月より森美術館館長の職を務めさせていただくこととなりました。創設者の故・森稔会長が磁力ある街づくりの一翼を担う施設として当館に期待したもの、その後、グローバルなアートシーンのなかで築いてきた独自の立ち位置を踏まえたうえで、今日求められる森美術館像を新たに模索してまいりたいと考えています。

東京の「文化都心」として誕生した六本木ヒルズのなかにあって、森美術館は多くの方々に現代アートの創造的で革新的な体験を提供してきました。これからも現代アートに対する理解を深め鑑賞者の裾野を拡げていくために、これまで歴代の館長が築いてきたものを継承し、これをさらに発展させていきたいと考えています。

今後の指針として以下の三つのポイントを挙げたいと思います。一つ目は、美術館周辺の地域コミュニティとの繋がりをさらに強めていくことです。地域の方々と密接な関係を築き、森美術館の存在感を高めるとともに地域の活性化に貢献していきたいと思っています。二つ目は、美術館の活動全般において「ダイバーシティ」を強く意識していくということです。現代社会におけるさまざまな不均衡に意識を向け、多様な価値観や思想に敬意を払うことを指針としたいと思います。そして三つめは、実体験を大事にすることです。美術館や地域という現実の空間で五感を刺激する実体験を提供すること。これも美術館の重要な使命だと考えています。
以上のような考えを持ちながらアジア太平洋地域を中心とした多様な美術館や芸術祭、教育機関などとのパートナーシップを築き、現代アート界全体の活性化と成長にも寄与したいと考えています。

政治、経済、社会、地球環境など21世紀の現代世界は新しい課題に直面しています。現代美術館はそうした世界を映し出す縮図と言えると思います。森美術館は、世界各地で活動する現代アーティストやその作品を通して私たちが生きる世界をより深く理解し、異なる歴史的、社会的、文化的な背景に敬意を払い、より良い未来を共に考える場となるよう努めてまいります。
今後も引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。