MAMコレクション009:米谷 健+ジュリア

主催:森美術館
企画:近藤健一(森美術館キュレーター)

本展では、日本人とオーストラリア人のユニット、米谷健+ジュリアによる、ウランガラスとブラックライトを用い、緑色に光るアリの形を模した立体作品《生きものの記録》(2012年)を紹介します。
オーストラリア北部、アーネム・ランドには、その大地を掘り起こすと地中から巨大な緑色のアリが出現して世界を踏み潰し破壊するという、先住民族アボリジニに伝わる神話「緑アリの教え」があります。しかしながら、1970年代、彼らの反対を押し切りウラン鉱山開発が行われた歴史が存在します。未来への警鐘とも解釈できるこの神話や鉱山開発の経緯の調査を経て制作され、原水爆の恐怖に怯える男性を描いた黒澤明の映画「生きものの記録」(1955年)からタイトルを引用した本作は、ウランを燃料とした原子力発電や核兵器など、核に対する作家の問題提起であるといえるでしょう。

MAMスクリーン010:ミハイル・カリキス

主催:森美術館
企画:片岡真実(森美術館副館長兼チーフ・キュレーター)

ミハイル・カリキスは、音楽、建築を学んだ後、映像、写真、パフォーマンスなど多様なジャンルを横断し、体感型インスタレーションへと発展させてきました。彼は音を作品の主要な素材として捉えており、なかでも人間の声は重要な役割を果たしています。
本プログラムでは、《地底からの音》《怖くなんかない》《チョーク工場》の3作品を上映します。元炭鉱労働者による合唱団が、当時聞いていた爆発音や機械音などを声に転換して歌う《地底からの音》。過疎化した村で生きるティーンエイジャーの思いからラップを作曲し、ミュージックビデオ風に仕上げた《怖くなんかない》。1950年代末から積極的に障がい者を雇用してきた工場のサウンドスケープ(音による風景)が描かれた《チョーク工場》。いずれも、人間の存在そのもの、友情、労働、行アクション動などに対するオルタナティブなモデルを提示し、経済や産業構造の変化が個々の人生に及ぼす影響、労働や雇用とは何か、コミュニティとは何か、といった根源的な問題を考えさせます。

MAMプロジェクト026:カーティス・タム

主催:森美術館
企画:近藤健一(森美術館キュレーター)
制作協力:ADAM Audio、アーカスプロジェクト実行委員会、ロサンゼルス・カウンティ美術館アート&テクノロジー・ラボ

即興演奏音楽史に影響を受けリサーチを行うカーティス・タムは、西洋的な知識体系に疑念を抱き、人間の定義について遊び心に満ちた命題を提示しています。近作では人間とそれ以外のものの自然災害に対する反応について研究しており、2017年、2018年と日本に滞在し、地震学者から地震波の性質を学んだほか、動物の地震予知能力を研究する科学者を取材しました。そのなかで鯰なまずに地震予知能力があるとされていることを知った作家は、江戸時代の風刺木版画、鯰絵を研究。一方で膨大な音源の収集も行い、サウンド・ライブラリーと称したこの音源集に、シャーマンの詠唱やセミの鳴き声、重さ数トンもの寺院の梵鐘の音などを加えました。また、作家自ら梵鐘の中にたたずみ、子宮のような空洞のなかで自身の体に音波がどのように作用するのかを体感しながら、共鳴する音波を録音するという実験的な試みも行っています。
本展の核となるサウンド・インスタレーションでは、梵鐘の胎内に見立てた空間へと鑑賞者を誘い、体の内部で深く音を聞く「ディープ・リスニング」という状態を体験させます。通常は雑音によりかき消されている音域の音を聞くことにより、鋭敏な感覚を持つ鯰になったかのような体験をし、私たちの感覚は刷新されることでしょう。