森ビル株式会社

生涯"イラストレーター"宇野亜喜良が語る、仕事と芸術のこと(第3回)

2013年02月15日

今月のゲスト:イラストレーター 宇野亜喜良さん

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2月14日より『宇野亜喜良展 さよならの城』がROPPONGI HILLS A/D GALLERYで開催されます。メインとして展示されるのは、谷川俊太郎さんとの初仕事となったイラスト。「1960年代に出版された寺山修司『さよならの城』のセンチメンタルな少女性をテーマにした」と語る宇野亜喜良さんの言葉ひとつひとつから、今回の展覧会にかける想いが伝わってきました。
2月16日から公開される、劇団「新宿梁山泊」による舞台『ロミオとジュリエット』の美術も担当。従来のイラストレーターの枠にとらわれず、演劇や広告など幅広い仕事をしながらも自らを「イラストレーター」と名乗ることにこだわる理由とは。今年で79歳を迎える現在もなお第一線で活躍する宇野さんに、変容する時代の中で歩んできたイラストレーターという仕事への考え方を伺いました。

少女が持つ「感性」を絵に表現したい
60年代のセンチメンタルな少女性がテーマ

2月14日から、ROPPONGI HILLS A/D GALLERYで『宇野亜喜良展 さよならの城』という僕の個展が開催されます。よく一緒にお仕事をさせて頂いた、寺山修司さんの出した本のタイトルが、そのまま今回の展示のタイトルになっています。
1964年に新書館が出した、『フォアレディースシリーズ』という若い女性を対象にしたシリーズ本があるのですが、そこに寺山さんが『さよならの城』という本を発表していて、その本の絵を僕が担当したんです。60年代当時の自分の仕事を懐かしむ感覚もあったりして、「当時のモチーフでもう一度絵を描いてみたいな」という思いがありました。『さよならの城』は少女性や、女性の感性に訴えた内容なので、今回は女性の持つセンチメンタルな部分をメインのテーマにしています。

数字的よりも、感覚的にかわいい少女を描くのが理想

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あるとき少女を描くことが「つまらない」と感じてぴったりと描くのをやめてしまった期間があったのですが、15年程前の自分の個展をきっかけに、また少女たちを描いてみようと思ったんです。
しかし描いてみると、60年代に描いていた少女たちっていうのがなかなか出てこなくて。以前は自分の気分で細く痩せた女の子たちを描いていたのですが、いつの間にか世の中はリアリズムの時代になっていて、「この場合こういう筋肉があるのが普通で」といった理性が発生してしまって、自己の情感だけでデフォルメするという絵が描けなくなっていたんです。
それが最近、呪縛から解放されたような感じで、あの頃のようにまた少女たちが描けるようになりました。今の女の子の風俗をまんま再現しなくてもいいと思って、もっと女性的な感性の部分を描こうとしています。

プロフール

1934年名古屋生まれ。1952年名古屋市立工芸高校図案科卒業。画家の宮脇晴に師事後、カルピス食品工業、日本デザインセンターを経てフリー。1964年スタジオ・イルフイルを設立。翌年離脱後、同世代を代表するイラストレーターと共に東京イラストレーターズ・クラブ設立。日宣美特選、日宣美会員賞、講談社出版文化賞、サンリオ美術賞、赤い鳥挿絵賞、日本絵本賞等を受賞。1999年紫綬褒章受章。2010年旭日小綬章受章。
主な作品に「宇野亜喜良60年代ポスター集」「サロメ」「少女からの手紙」「奥の横道」「MONO AQUIRAX +」、絵本に「あのこ」(今江祥智・文)「白猫亭」「上海異人娼館」(寺山修司・原作)、詩画集「ami」等多数。キュレーターや舞台美術も手掛ける。