森ビル株式会社

新しいこと、ノスタルジー。東京の魅力の多面性(第3回)

2012年05月18日

今月のゲスト:作家 有吉玉青さん

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流麗な文体で紡ぐ小説やエッセイで読者を魅了する作家の有吉玉青さん。生まれも育ちも東京の彼女にとって、東京はやはり特別な場所なのかもしれません。
今年4月に出版した『美しき一日の終わり』は、70歳の女性の一生に寄り添う小説。女性が長い人生の間、胸の奥にしまい続けてきた恋心を、慈しむように描写した作品です。物語のなかでは、彼女の人生と戦後東京の昭和史が重なり合い、個と社会のつながりを通じて時代の変遷も描かれていきます。
さらに実母で作家の有吉佐和子さんの影響もあり、舞台鑑賞や美術館、映画館などへ出かけるのが大好きと言う有吉さん。エッセイなどにはしばしば鑑賞の様子やストレートな感想が登場します。東京という都市への向き合い方、楽しみ方を幾通りも知る彼女に、東京への思いを尋ねます。

都市の魅力を語るのは難しい
東京が好き、でもうまく言えない

都市の魅力を語ることには、どこか難しいところがありますね。たとえば、「都市が好きだ」というよりも、「自然が好きだ」とか「人情が好きだ」というほうがいいような気がしませんか? 「ニューヨークはビルばっかりで息が詰まりそうだ」みたいなことを言うほうが、何か格好いいなと思ったり…。
私は東京生まれ、東京育ちで、東京は大好きです。アート鑑賞や舞台鑑賞が好きなので、美術館も、劇場も、映画館もたくさんある東京は、いろいろと楽しいです。でも「じゃあ、魅力って何なのか?」ということになると、うまく言えないんですよね。

変化し続けるから面白い

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HILLSCAST収録風景

ときどき東京に来る外国人の友人と話をすると、「東京って来るたびに違う」って言うんですね。街が変わっていくって。あるとき、この場所を開発しているなと思ったら、次に来たときにはそこに大きなビルができている。新しくなっていく、変化していく。そういうところが面白いと言われて、なるほどと思いました。
そういえば、開発していて、そこにあったものが全部なくなってしまうと、大きいビルが建っていたのに、土地は意外と小さかったんだと思うことがありますね。そして、壊しているときは寂しかったりしますが、新しいものが建っても、「そこに何があった」という記憶は残っていて、ノスタルジーを感じられる。そういう重層的なところも、東京の魅力のひとつではないでしょうか。

プロフール

作家。1963年生まれ。東京大学大学院在学中の1989年に、母との思い出を描いた『身がわりー母・有吉佐和子との日日』を上梓し、翌年、坪田譲治文学賞受賞。小説作品の最新作に『美しき一日の終わり』(講談社)。また、茶道や舞台鑑賞、フェルメール作品の全点踏破など、多彩な趣味も持ち、エッセイも幅広く執筆している。観劇や映画、美術評をまとめた『はじまりは「マイ・フェア・レディ」』(小学館文庫)が今年6月に刊行予定。