森ビル株式会社

新しいこと、ノスタルジー。東京の魅力の多面性(第2回)

2012年05月11日

今月のゲスト:作家 有吉玉青さん

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流麗な文体で紡ぐ小説やエッセイで読者を魅了する作家の有吉玉青さん。生まれも育ちも東京の彼女にとって、東京はやはり特別な場所なのかもしれません。
今年4月に出版した『美しき一日の終わり』は、70歳の女性の一生に寄り添う小説。女性が長い人生の間、胸の奥にしまい続けてきた恋心を、慈しむように描写した作品です。物語のなかでは、彼女の人生と戦後東京の昭和史が重なり合い、個と社会のつながりを通じて時代の変遷も描かれていきます。
さらに実母で作家の有吉佐和子さんの影響もあり、舞台鑑賞や美術館、映画館などへ出かけるのが大好きと言う有吉さん。エッセイなどにはしばしば鑑賞の様子やストレートな感想が登場します。東京という都市への向き合い方、楽しみ方を幾通りも知る彼女に、東京への思いを尋ねます。

大好きな『スカイアクアリウム』夜景の中を魚たちが泳ぐイメージ

2008年のことですけれど、夜景の中を魚がたくさん泳いでいるポスターを見たんです。「何だろう?」と思ったら、「天空の水族館『スカイアクアリウムII』」と書いてあったんですね。それが六本木ヒルズ森タワー52階の展望台、東京シティビューにあるということで、「これはおもしろそう」と見に行きました
最初、ポスターのように大きな窓いっぱいに水槽があって、そこを魚が泳いでいるのかなと思っていたら、そうではなかったのですが。それでも夜に行ったので、展望台から見た夜景がきれいだったのと、水槽で泳ぐ色とりどりの魚たちが美しくて、私の記憶の中でその二つの光景が合成されているんですね。夜景の中を魚が泳いでいるように。『スカイアクアリウム』、大好きです。

未来都市のワンシーンのような水族館

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スカイアクアリウムII

子どものときに、未来の都市についていろいろな想像をしたと思うんですけど、『スカイアクアリウム』は未来の海底都市のイメージです。海の中に都市があって、たくさん魚が泳いでいて。『スカイアクアリウム』を見て、そんなことを思い出しました。また、あんなに高いところに水族館があるということ自体が、すごく楽しいんですよ。まさに空の中に水族館が現れたようで。
「毎年あるといいな」と思っていたら、お休みの年があったんですけど、去年「天空の水族館『スカイアクアリウム2011』」として復活してうれしかったです。これからも続けてほしいと思います。

プロフール

作家。1963年生まれ。東京大学大学院在学中の1989年に、母との思い出を描いた『身がわりー母・有吉佐和子との日日』を上梓し、翌年、坪田譲治文学賞受賞。小説作品の最新作に『美しき一日の終わり』(講談社)。また、茶道や舞台鑑賞、フェルメール作品の全点踏破など、多彩な趣味も持ち、エッセイも幅広く執筆している。観劇や映画、美術評をまとめた『はじまりは「マイ・フェア・レディ」』(小学館文庫)が今年6月に刊行予定。