森ビル株式会社

魅力的な話や人を伝えたくて、漫画を描く(第4回)

2012年02月24日

今月のゲスト:漫画家 柴門ふみさん

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『東京ラブストーリー』や『あすなろ白書』など、ラブストーリーを通して人々の心の揺らぎを30年以上描き続けている漫画家の柴門ふみさん。2011年11月には、新刊『同窓生 人は、三度、恋をする』が発売されました。柴門さんの作品で描かれる複雑なエピソードや人の感情の繊細な揺らぎは、どこから想起されるのでしょう。お話しを聞いてみると、年齢や職業もバラバラに人が集まり、人生や恋愛にまつわる悩みについて夜通し語り合う「柴門塾」を開いているそう。「恋愛をする人が減った」と言われる現代を、柴門さんはどのように見つめているのでしょうか。登場人物の誕生秘話から現代の恋愛事情、多くの漫画の舞台にもなっている東京という都市について、お話しを伺いました。

憧れの街、東京・吉祥寺に暮らす
徳島と東京で違うもの、文化、土、水、そして木

私は四国の徳島出身で、大学進学のために18歳で上京してきました。姉と一緒に中央線の三鷹の駅のそばで暮らしていて、そこが私にとっての初めての東京です。三鷹から自転車に乗って吉祥寺の井の頭公園まで遊びに行っていたので、井の頭公園が東京のイメージですね。徳島には大きなケヤキがないので、初めて武蔵野の公園を見たときはすごいなと思いました。「いつかは吉祥寺に住みたいな」と思っていたんですが、念願かなって去年引っ越しました。
東京と徳島とでは木が全然違いますね。徳島は土の色が赤茶けているんですが、東京の土は真っ黒。水のにおいも木も、東京は違うと思いました。あとは、お芝居や音楽、文化的なことが体感できるというのは魅力的ですね。食べ物もおいしいですし、やはり都市としての東京の魅力は世界一だと思います。

上京時の楽しい東京のイメージが漫画に描かれている

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© 柴門ふみ/小学館『ビッグコミックスペリオール』

四国にいたときは、とにかく東京に行きたくて、憧れていたんです。当時の徳島は、映画館も少なくて、書店にも読みたい本はあまり来ない。テレビ番組は地元の放送局とNHKの2局しか映らないみたいなところで、文化的にものすごく飢えていたんです。
「東京に行くと、すごく楽しいことがいろいろあるんだろうな」と漠然と思っていました。だから、大学入学と共に東京に出てきた時はうれしくて、うれしくて。毎日、東京の街をあちこち歩いて、その楽しいイメージが今でも残っているから、漫画でも東京を描いているんだろうなと思いますね。八ヶ岳にもう一軒、夏に使っている家があるんです。後は京都もすごく好きで、八ヶ岳と京都と東京の3つの場所で暮らせればどこにも行かなくていいと思っているくらいです。八ヶ岳には自然があって、京都には文化があって、東京はとにかく便利。まだ、その3つが一緒になっているところはないですね。

プロフール

漫画家。1957年徳島県生まれ。現在の夫である弘兼憲史氏のアシスタントを経て'79年に漫画家デビュー。1983年に『P.S.元気です、俊平』で講談社漫画賞、1992年に『家族の食卓』『あすなろ白書』で小学館漫画賞を受賞。代表作に『東京ラブストーリー』『同・級・生』『女ともだち』など。エッセイストとしても活躍中で、大ベストセラー『恋愛論』をはじめ、近著では『ぶつぞう入門』『にっぽん入門』などがある。現在ビッグコミック スペリオールに連載中の『同窓生 人は、三度、恋をする』の単行本第一巻が、2011年11月に発売された。