森ビル株式会社

魅力的な話や人を伝えたくて、漫画を描く(第3回)

2012年02月17日

今月のゲスト:漫画家 柴門ふみさん

1202_img.jpg

『東京ラブストーリー』や『あすなろ白書』など、ラブストーリーを通して人々の心の揺らぎを30年以上描き続けている漫画家の柴門ふみさん。2011年11月には、新刊『同窓生 人は、三度、恋をする』が発売されました。柴門さんの作品で描かれる複雑なエピソードや人の感情の繊細な揺らぎは、どこから想起されるのでしょう。お話しを聞いてみると、年齢や職業もバラバラに人が集まり、人生や恋愛にまつわる悩みについて夜通し語り合う「柴門塾」を開いているそう。「恋愛をする人が減った」と言われる現代を、柴門さんはどのように見つめているのでしょうか。登場人物の誕生秘話から現代の恋愛事情、多くの漫画の舞台にもなっている東京という都市について、お話しを伺いました。

夫である弘兼憲史との同業夫婦生活
漫画家でいられるのは夫のおかげでもある

最初は、夫である弘兼憲史に「仕事をやめるな」と言われて、泣く泣く仕事をやっていたんです。夫がそう言ったのは「せっかく漫画家になれたのだから、辞めたらもったいないだろう」と。でも、ありがたいと思っています。多分、うちの夫と結婚していなかったら、漫画家になっていなかったと思いますし、なっても、すぐやめていたでしょうね。私、一番最初の子を産んだのが25歳なんですよ。その時、私は漫画家としての目標があったんです。日本中の人が作品名を聞いて、「ああ、あれか」とわかってくれるような作品を1本でも描いたらやめてもいいなと思っていて、その目標のために35歳までは頑張りました。
『東京ラブストーリー』という作品を皆さんに認知してもらったので、「もういいかな」と思ったんですけれど、それでも毎日友達と会って話して、家事をしながら暮らしているうちに、「この友達面白いから表現してみたい」という欲が出てくるんです。その時はやはり専業主婦だけでは物足りない自分というのがあったんですね。

同業夫婦の良いところと悪いところ

1202_3_1.jpg
© 柴門ふみ/小学館『ビッグコミックスペリオール』

私にとっては、同業夫婦で良かったことの方が多いですね。仕事のこともお互い理解し合えますし、今はもうやらないですけれど、「画材が足りなくなったから、あなたのちょっと仕事場から持ってきてよ」とか「ちょっとアシスタント1人こっちに回して」という風に、非常に融通を効かせてくれました。
私が大変なときには、「ご飯作れ」とも言いませんし、ほったらかしにしている家事を手伝ってくれたり、仕事への理解があるのは本当にありがたいです。夫にとってみれば、作品に関しても「今回は手を抜いているな」と見抜かれてしまうということもありますし、同業の妻というのは「失敗したかな」と思っているかもしれません(笑)。

プロフール

漫画家。1957年徳島県生まれ。現在の夫である弘兼憲史氏のアシスタントを経て'79年に漫画家デビュー。1983年に『P.S.元気です、俊平』で講談社漫画賞、1992年に『家族の食卓』『あすなろ白書』で小学館漫画賞を受賞。代表作に『東京ラブストーリー』『同・級・生』『女ともだち』など。エッセイストとしても活躍中で、大ベストセラー『恋愛論』をはじめ、近著では『ぶつぞう入門』『にっぽん入門』などがある。現在ビッグコミック スペリオールに連載中の『同窓生 人は、三度、恋をする』の単行本第一巻が、2011年11月に発売された。