森ビル株式会社

魅力的な話や人を伝えたくて、漫画を描く(第2回)

2012年02月10日

今月のゲスト:漫画家 柴門ふみさん

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『東京ラブストーリー』や『あすなろ白書』など、ラブストーリーを通して人々の心の揺らぎを30年以上描き続けている漫画家の柴門ふみさん。2011年11月には、新刊『同窓生 人は、三度、恋をする』が発売されました。柴門さんの作品で描かれる複雑なエピソードや人の感情の繊細な揺らぎは、どこから想起されるのでしょう。お話しを聞いてみると、年齢や職業もバラバラに人が集まり、人生や恋愛にまつわる悩みについて夜通し語り合う「柴門塾」を開いているそう。「恋愛をする人が減った」と言われる現代を、柴門さんはどのように見つめているのでしょうか。登場人物の誕生秘話から現代の恋愛事情、多くの漫画の舞台にもなっている東京という都市について、お話しを伺いました。

新刊『同窓生 人は、三度、恋をする』が描かれるまで
40代で3回目の恋をしたら人はどうなるのか

昨年末に、『同窓生 人は、三度、恋をする』というコミックスの第1巻を刊行しました。これは現在も「ビッグコミックスペリオール」で連載中です。
どういうストーリーかと言いますと、中学時代、短い間でもつき合った初恋同士のようなカップルが、同窓会で20年ぶりに再開して、ちょっとドキドキする。同じ同窓会に出席したもう1つのカップルは、いきなり不倫に突入し…というのが物語の大きな流れです。 人生で3回ぐらいしか恋愛経験のないような人が、40代で3回目の恋愛に出会ったらどういう行動をとるのかなというのが非常に興味があったんです。「絶対不倫なんかしない、40歳すぎて恋なんかするはずがない」と思っていた普通の人が、恋に出会ったらどうなるか。
恋愛って実は結構侮れないものなんだぞということを描いてみたいなと思って、編集部と相談して始めたのがこの連載です。友達から「40歳過ぎてからの同窓会は、とんでもないことが起きるよ」というのをたくさん聞かされていて、現実に起こっていることを反映させて描いている部分もあります。

漫画を描いていて一番うれしい瞬間とは

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もちろん読者からのおハガキやお便りもうれしいし、本が何万部、何十万部売れた、ドラマ化が決まったというのもうれしいんですけれど、一番うれしいのは、今まで描けなかったものが描けたという瞬間です。それがあるから、今も書き続けているんですね。これ以上の完成品が描けないと思ったときは、やめるときだと思っています。
漫画という表現はまだまだ可能性があって、「もっとうまくなれるんじゃないか」「もっとちゃんと表現できるんじゃないか」というのが、自分の中に残っている間は続けているんだと思います。たくさんの作品をドラマ化していただきましたが、やはり生身の役者さんが演じるものと、絵に描いた漫画とは違うもの。ドラマ化された段階で、それは演じる役者さんや演出家の人の作品になると思っています。伝えたいテーマや、全体の作品のトーンが同じであれば、私はいいなと思っているんです。

プロフール

漫画家。1957年徳島県生まれ。現在の夫である弘兼憲史氏のアシスタントを経て'79年に漫画家デビュー。1983年に『P.S.元気です、俊平』で講談社漫画賞、1992年に『家族の食卓』『あすなろ白書』で小学館漫画賞を受賞。代表作に『東京ラブストーリー』『同・級・生』『女ともだち』など。エッセイストとしても活躍中で、大ベストセラー『恋愛論』をはじめ、近著では『ぶつぞう入門』『にっぽん入門』などがある。現在ビッグコミック スペリオールに連載中の『同窓生 人は、三度、恋をする』の単行本第一巻が、2011年11月に発売された。