森ビル株式会社

魅力的な話や人を伝えたくて、漫画を描く(第1回)

2012年02月03日

今月のゲスト:漫画家 柴門ふみさん

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『東京ラブストーリー』や『あすなろ白書』など、ラブストーリーを通して人々の心の揺らぎを30年以上描き続けている漫画家の柴門ふみさん。2011年11月には、新刊『同窓生 人は、三度、恋をする』が発売されました。柴門さんの作品で描かれる複雑なエピソードや人の感情の繊細な揺らぎは、どこから想起されるのでしょう。お話しを聞いてみると、年齢や職業もバラバラに人が集まり、人生や恋愛にまつわる悩みについて夜通し語り合う「柴門塾」を開いているそうです。「恋愛をする人が減った」と言われる現代を、柴門さんはどのように見つめているのでしょうか。登場人物の誕生秘話から現代の恋愛事情、多くの漫画の舞台にもなっている東京という都市について、お話を伺いました。

柴門ふみさんの長編作品が生まれるまで
自分の知っている魅力的な人を教えたい

長編の連載を始めるときには、まず登場人物の性格設定とシチュエーション、場所、時間というものを大まかに決めて、描きだします。1話、2話と描いているうちになんとなく流れがつかめてくるんですが、作者自身が生活のなかで温めると言いますか、ご飯を食べているときでも、お風呂に入っているときでも、寝るときでも、体の底で登場人物たちを体のなかで動かしていくと、ふうーっとこう、イメージが流れる瞬間が出てきてくれるんです。それを待っているのも、仕事のうちというところはありますね。
私は、自分の何かを表現したいという気持ちはあんまりないんです。私が聞いたおもしろい話、私が知っている魅力的な人々をほかの人にも教えてあげたいという欲求から、漫画やエッセイを描いています。

本当に苦しくても、漫画を描くのをやめない理由

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HILLSCAST収録風景

そのときそのときで、アイディアを練っているときが楽しいこともあれば、絵を描いているときが楽しいこともあります。また逆に、それが苦しいときもある。本当は絵を描く作業ってすごく楽しいはずなんですけれど、何か体が拒否するときもあるんです。どうしても描きたくないとき、というのが。その時が一番苦しいですね。それは、もう一生分描いてしまったから描けないのかなと思ったりしています。
「やめればどれだけ楽になれるか」というのも何度も何度も思いました。それは崖からロープでぶら下がっているような感じで、「この手を離して落ちても下には、クッションがある。専業主婦というクッションにくるまれて、こんな思いをしないで生きていくこともできるのに…」と、苦しい時はいつも思っていたんですけれども、それでも手を離さないのは、やっぱり崖のロープをもうちょっと自分でよじ登った先で、崖からパッと首を上げたときに気持ちの良い青空が見られるからだということじゃないかなと思います。

プロフール

漫画家。1957年徳島県生まれ。現在の夫である弘兼憲史氏のアシスタントを経て'79年に漫画家デビュー。1983年に『P.S.元気です、俊平』で講談社漫画賞、1992年に『家族の食卓』『あすなろ白書』で小学館漫画賞を受賞。代表作に『東京ラブストーリー』『同・級・生』『女ともだち』など。エッセイストとしても活躍中で、大ベストセラー『恋愛論』をはじめ、近著では『ぶつぞう入門』『にっぽん入門』などがある。現在ビッグコミック スペリオールに連載中の『同窓生 人は、三度、恋をする』の単行本第一巻が、2011年11月に発売された。