森ビル株式会社

メタボリズムに学ぶ、都市と文明のヒント(第5回)

2012年01月27日

今月のゲスト:建築評論家・建築史家 松葉一清さん

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1960年はじめに日本で発表された建築理論『メタボリズム』。若い建築家たちが建築や都市計画について考え抜き、情熱を注いで辿り着いたその建築理論から、「元気をもらった」と話すのは建築評論家の松葉一清さんです。3月11日の大震災発生から大きな課題となっている復興のヒントも、そこに隠されていると言います。50年以上前に考えられた建築理論に、一体何が込められているのか。『メタボリズム』、そして都市と文明について、松葉さんにお話を伺いました。

関東大震災に学ぶ復興
人々が復興に向かっていったエネルギー

関東大震災が起こったときは、実質的に総理大臣がいない状況でした。8月の終わりに前の総理大臣が亡くなって、震災が起こった翌日に、慌てて内閣を作った。そういう一種の政治不在で関東大震災の復興というのは始まります。そのとき昭和天皇が摂政の宮としていらっしゃったんですけれども、「復旧ではなく復興をやれ」と言うんです。
つまり、「これを機会に、帝都にふさわしい東京をつくれ」ということを詔勅で示されるわけです。それは「40億円計画」と言われていますけれども、焼け跡を一度全部買収して、公共事業として区画整理をする。実際10何万人も亡くなって、実は身辺で誰も亡くならなかった人はいないというくらいの大震災だったのですけれども、「悲劇はすぐ忘れて、みんながハンマーとかを持って立ち上がった」ということを書いている人がいるくらい、人々はエネルギーを持って復興に向かっていったんですね。

『メタボリズム展』に感じる時代の熱気

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神田須田町交差点(復興2号街路)

関東大震災のときの当時の文献を読んでいると、「日本の富の8%が失われた」などということがよく書かれています。恐らく、今度の東日本大震災のリアス式海岸の長さを見ていると、300キロ以上あるので、面積はともかく、やはり数%日本の富は失われたのでしょう。そうすると過去2回、それから戦災を合わせて3回、明治、帝都復興、それから戦災復興を経て、「この知恵を使え」というようなことを『メタボリズム展』に出ている模型が、展覧会を見にやってきた人に語りかけているんじゃないかなと思うんです。バブルのあとの都市づくりの話とはまた違う意味で、この時代の熱気というのは、ぜひ学んでほしいと思います。
同じことはできないかもしれないけれど、その気持ちや姿勢というのは、もう一度建築家にも取り戻してほしいなと思っています。

プロフール

建築評論家・建築史家。1953年 兵庫県神戸市生まれ、京都大学工学部建築学科卒業、武蔵野美術大学 教授。 近代建築史、近代都市史、現代建築評論、都市と建築の過去、現在、未来を歴史、景観、社会制度、デジタルカルチャーとの関係などの視点で考察。 著書に『帝都復興せり!ー『建築の東京』を歩く 1986ー1997 』(1997年 朝日文庫)、『パリの奇跡ー都市と建築の最新案内』(1998年 朝日文庫)、『モール、コンビニ、ソーホー』(2002年 NTT出版)、『新建築ウォッチング 2003ー2004』(2004年 朝日新聞社)ほか多数。