森ビル株式会社

メタボリズムに学ぶ、都市と文明のヒント(第3回)

2012年01月13日

今月のゲスト:建築評論家・建築史家 松葉一清さん

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1960年はじめに日本で発表された建築理論『メタボリズム』。若い建築家たちが建築や都市計画について考え抜き、情熱を注いで辿り着いたその建築理論から、「元気をもらった」と話すのは建築評論家の松葉一清さんです。3月11日の大震災発生から大きな課題となっている復興のヒントも、そこに隠されていると言います。50年以上前に考えられた建築理論に、一体何が込められているのか。『メタボリズム』、そして都市と文明について、松葉さんにお話を伺いました。

携帯電話を眺める人々の都市
果たして東京に現代的な都市基盤があるのか

東京について1番に思うのは、都市を見ないで歩いている人がたくさんいるということです。地下鉄を降りた途端にバッグやポケットから携帯電話を出して、いきなり携帯電話の画面を眺めながら、つまずきもせず、けがもせず、よくまぁみんなが歩いていると。
都市や建築に関わっている私らの立場からいうと、すごく不安にかられる風景なんですね。やはり、都市が持っていたパースペクティブ、特にパリでよくグランヴュといいますが一種の見通し、まあ遠くまで見えるよということが都市の姿であったのに、今、人は携帯の数インチの画面を見ながら都市を歩いている。そのことによってどんな都市ができているのか。あるいは、この都市が果たして自分に対していいことをしているのか。そのあたりの議論ができなくなってきているんじゃないかなと思います。携帯のゲームは、文化です。よく言われるクールジャパンという言葉も、文化を指しています。
では、日本に文明があるのかと。携帯を見ている人たちをシェルターとして守ってくれる都市基盤、そういうものがあるか、文明があるのかということ。そこが東京の最大の問題なのかなと思っています。

象徴的な建築、NTTのアンテナタワー

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HILLSCAST収録風景

NTTはアンテナタワーというビルをたくさん作っています。皆さんがよくご存知なもので言えば、代々木の駅前に「エンパイアステートビルのようだ」と言われるあの建物がありますよね。あれは中に携帯電話のサーバーしか入っていない建物です。
てっぺんにあるのは避雷針ではなくて、パラボラアンテナをつけ替えるためのクレーン。先がとがって見えているのは、実はあのクレーンの足元にパラボナアンテナがたくさんついていて、あの塔は90度折れてパラボラアンテナを動かすことができるんです。そのパラボナアンテナに、皆さんが見ている画面から電波が飛んで、通信している相手へ電波が飛んでいくという仕組みです。今携帯を見ている人たちにとって、文化の孵化器となる都市基盤構造体って一体何なんだろうかと考えると、あのアンテナタワーだけでは困るだろうと思うわけです。

プロフール

建築評論家・建築史家。1953年 兵庫県神戸市生まれ、京都大学工学部建築学科卒業、武蔵野美術大学 教授。 近代建築史、近代都市史、現代建築評論、都市と建築の過去、現在、未来を歴史、景観、社会制度、デジタルカルチャーとの関係などの視点で考察。 著書に『帝都復興せり!ー『建築の東京』を歩く 1986ー1997 』(1997年 朝日文庫)、『パリの奇跡ー都市と建築の最新案内』(1998年 朝日文庫)、『モール、コンビニ、ソーホー』(2002年 NTT出版)、『新建築ウォッチング 2003ー2004』(2004年 朝日新聞社)ほか多数。