森ビル株式会社

メタボリズムに学ぶ、都市と文明のヒント(第2回)

2012年01月06日

今月のゲスト:建築評論家・建築史家 松葉一清さん

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1960年はじめに日本で発表された建築理論『メタボリズム』。若い建築家たちが建築や都市計画について考え抜き、情熱を注いで辿り着いたその建築理論から、「元気をもらった」と話すのは建築評論家の松葉一清さんです。3月11日の大震災発生から大きな課題となっている復興のヒントも、そこに隠されていると言います。50年以上前に考えられた建築理論に、一体何が込められているのか。『メタボリズム』、そして都市と文明について、松葉さんにお話を伺いました。

文化は、文明という器に開花する
文明の行き詰まりは、文化で解毒できるのか

私が最近よく考えていることは、文明と文化の違いです。都市や構築物を作ることにたくさんのお金を使ってきた日本なのに、美しい都市ができないのはどうしてだろう。作っては壊す、スクラップ&ビルドを繰り返しているのはどうしてだろうと考えたのです。
そこで1980年代以降、日本のなかでも特に東京を、水系都市、運河が張り巡らされた戦前の都市としてとらえ直すということをやってみました。1980年代、東京の近代化が行き詰ったとき、一つの解毒剤のようにして使われた永井荷風の話があります。『墨東綺譚』という小説で、フランスかぶれの人たちが隅田川をセーヌ川に見立てるんです。しかし私は文明が行き詰ったときに、永井荷風という文化でそれを解毒できるのかというと、それはちょっと違うのかなと最近は思っています。

『メタボリズム展』に見る、文明の復興

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広島ピースセンター(丹下健三)
(メタボリズムの未来都市展)

江戸時代には様々な文化が花開きましたが、文明の方が木と紙でできていたためにずっと火事が続き、まさにスクラップ&ビルドを繰り返してきたわけです。何とか歯止めをかけないといつまでも都市が資産として残っていかない。そこの発想転換で重要なのは、文化は文明という器があって初めて開花するという考え方です。
やはり、文明に対して、日本人は真正面から向き合っていくということが大事なのではないでしょうか。現代にも重ねて、「建築が文化になってしまったら、文明はだれが作るんだ?」とよく考えていました。
『メタボリズム展』を見ているとわかるのですが、当時の彼らは明らかに文化を作ろうとしたんじゃない、文明を作ろうとしたんです。日本は江戸時代に鎖国を解いて、明治元年1968年から急激な脱亜入欧、和魂漢才を文字って和魂洋才とも言うわけですが、精神は日本だけれども、科学技術は西洋のものを使うということで急送に都市を西欧化していきました。それが、関東大震災で一撃をくらって、いったん崩壊します。そんなふうに落胆させられることが続くと、人は何となく文明よりも文化に帰りたがるのですけれど、『メタボリズム展』を見ると、そうは言いながらも人々は文明の戦災復興に立ち上がっていったのがよくわかります。

森美術館『メタボリズムの未来都市展』

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会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

『メタボリズム』とは、「生物が代謝を繰り返しながら(生物学用語で“メタボリズム”は“新陳代謝”を意味する)成長していくように建築や都市も有機的に変化できるようデザインされるべきである」というマニフェストとして、1960年代に日本で発表された建築理論です。
本展は、『メタボリズム』に今日どのような意義があるのかを問いかける、世界で初めての展覧会となる。メタボリズム運動誕生の背景となった丹下健三の思想・事蹟と、1960年代を中心とした『メタボリズム』の活発な活動、1970年の大阪万博までを資料、模型などで紹介します。

プロフール

建築評論家・建築史家。1953年 兵庫県神戸市生まれ、京都大学工学部建築学科卒業、武蔵野美術大学 教授。 近代建築史、近代都市史、現代建築評論、都市と建築の過去、現在、未来を歴史、景観、社会制度、デジタルカルチャーとの関係などの視点で考察。 著書に『帝都復興せり!ー『建築の東京』を歩く 1986ー1997 』(1997年 朝日文庫)、『パリの奇跡ー都市と建築の最新案内』(1998年 朝日文庫)、『モール、コンビニ、ソーホー』(2002年 NTT出版)、『新建築ウォッチング 2003ー2004』(2004年 朝日新聞社)ほか多数。