森ビル株式会社

メタボリズムに学ぶ、都市と文明のヒント(第1回)

2012年01月01日

今月のゲスト:建築評論家・建築史家 松葉一清さん

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1960年はじめに日本で発表された建築理論『メタボリズム』。若い建築家たちが建築や都市計画について考え抜き、情熱を注いで辿り着いたその建築理論から、「元気をもらった」と話すのは建築評論家の松葉一清さんです。3月11日の大震災発生から大きな課題となっている復興のヒントも、そこに隠されていると言います。50年以上前に考えられた建築理論に、一体何が込められているのか。『メタボリズム』、そして都市と文明について、松葉さんにお話を伺いました。

今こそ注目すべき、『メタボリズム』の力
建築家による2つの“ソウゾウ”力

武蔵野美術大学教授の松葉一清です。現代建築の評論、そして19世紀以降の近代の都市と建築の歴史が専門の研究分野です。
2012年1月15日まで、森美術館で開催されている『メタボリズムの未来都市展』を見に行きました。一番に感じたのは、都市に対する“ソウゾウ”力、2つの“ソウゾウ”の力です。1つはイマジネーションという意味の想像、もう1つはクリエイションという意味の創造ですね。建築家や都市計画家が未来を信じ、2つの“ソウゾウ”力を発揮して、形をなした建築や都市。時代の1つの大変な記念碑が、ここに集まっているんだと受け止めました。
3月11日以降、恐らく皆さんは「復興」ということに大きな期待を持っているだろうと思います。しかし、ニュース映像を見ていても、瓦礫が無くなったあとに仮設住宅以外の何物もまだ建っていない。そういう状態に対して、ある種の失望のようなものを抱いているのではないでしょうか。「ここからどうやったら復興できるのか?」と。
そんなタイミングで、この『メタボリズム展』は開催されています。都市に対する2つの“ソウゾウ”力溢れる展示物には、「どうやって復興していくか」ということに対するヒントが隠されています。あるいは展覧会を見て、「こんなに元気な時代があった」という風に元気をもらうことができると思います。

『メタボリズム』は、前向きな都市論

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農村都市計画(黒川紀章)
(メタボリズムの未来都市展)

19世紀の半ばぐらいから、特にヨーロッパにおいて、「労働者のための都市をつくろう」という考え方がありました。ウイリアム・モリスの「ユートピア」や、20世紀の初め頃のロンドンでハワードが考えた「田園都市構想」。これは日本にもそのまま輸入されて、堤康次郎、五島慶太、小林一三といった人たちが、主に私鉄の沿線で展開しました。
今でも田園都市線という名前が残っていますよね。このように20世紀の初めには、理想都市を求める動きがすごく強かったんです。それから、2つの世界大戦が起きます。戦後復興を急いでいくうちに、コンクリート打ち放しの建物に象徴されるような近代の空間で埋め尽くされた都市というものが、必ずしも人間を幸せにしないんじゃないかという考えが生まれたんです。
1960年代の黒川紀章、菊竹清訓、それから川添登、もう1つ上の世代でいうと丹下健三。この人たちの中で、都市に対して建築家がしっかりした発言力を保っていくためにも、都市を生き物としてとらえることによって、モダニズムの行き詰まりみたいなものを打破できるんじゃないかという考えが湧きあがった。その可能性を託したのが『メタボリズム』という建築理論です。
何かに対して明るい未来像を語ると、今の時代は揶揄されたり前向きすぎると言われてしまうのでみんなシニカルに構えるんですけれども、そうではなくて、やはり前向きの都市像を語っていくべきだと、『メタボリズム展』で改めてそう感じました。

森美術館『メタボリズムの未来都市展』

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会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

『メタボリズム』とは、「生物が代謝を繰り返しながら(生物学用語で“メタボリズム”は“新陳代謝”を意味する)成長していくように建築や都市も有機的に変化できるようデザインされるべきである」というマニフェストとして、1960年代に日本で発表された建築理論です。
本展は、『メタボリズム』に今日どのような意義があるのかを問いかける、世界で初めての展覧会となる。メタボリズム運動誕生の背景となった丹下健三の思想・事蹟と、1960年代を中心とした『メタボリズム』の活発な活動、1970年の大阪万博までを資料、模型などで紹介します。

プロフール

建築評論家・建築史家。1953年 兵庫県神戸市生まれ、京都大学工学部建築学科卒業、武蔵野美術大学 教授。 近代建築史、近代都市史、現代建築評論、都市と建築の過去、現在、未来を歴史、景観、社会制度、デジタルカルチャーとの関係などの視点で考察。 著書に『帝都復興せり!ー『建築の東京』を歩く 1986ー1997 』(1997年 朝日文庫)、『パリの奇跡ー都市と建築の最新案内』(1998年 朝日文庫)、『モール、コンビニ、ソーホー』(2002年 NTT出版)、『新建築ウォッチング 2003ー2004』(2004年 朝日新聞社)ほか多数。