森ビル株式会社

本と愉しくやっていくために、今話しておきたいこと(第4回)

2011年11月25日

今月のゲスト:ブックディレクター 幅 允孝さん

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ブックディレクターの幅 允孝さんが、本にまつわるあらゆることを仕事にする会社・BACHを立ち上げてから6年が経ち、その間電子書籍などの登場によって本を取り巻く環境は大き く変化してきました。11月23日にアカデミーヒルズで行われる『六本木アートカレッジ』で、「本とは愉しくやっていきたい」というトークレクチャーを開 催する幅さん。
ヒルズキャストでは、トークレクチャーを控えた幅さんに一足先にお話しを伺いました。これから本と愉しく付き合っていくにはどう し たらいいのか。「本とは愉しくやっていきたい」というテーマにたどり着くまでに何を考えたのか。そのお話には、情報に溢れる都市で楽しく暮らしていくため のヒントが詰まっています。

本にまつわる仕事を続けてきて思うこと
本の方から人に近づいていくという考え方

今一番僕が怖いのは、根源的に「体が本を忘れちゃう」ということ。人が本を欲しいと思って、本屋さんにまで行っても、「持って帰るのも重いし、やめようかな」とか「レジ待ってるから、今日はいいや」とか、色々な理由でなかなか本を買ってくれないような状況になって、ページをめくるという行為が損なわれてしまうことが何よりも怖いんですよね。何か読み始めて途中でやめると、なぜか本に負けたような気がしちゃうじゃないですか。でも、最初の1行目から最後の1文字までしっかり読むということは1つの読み方でしかなくて、そうする以外にももっと本に気軽に接することもできると思うんですよ。
その人にとって面白かったり、その人の日常が良い方向に転がっていくんだったら、僕はどういう読み方でもいいと思っています。読んだのが1行だけでも、その1行からすごく感銘を受ければ、それはそれで「すてきな読書だね」って言いたいんです。これまで本屋さんってどうしても「待ち」の立場だったんですよね。
これからはもっと本の方から人に近づいていく必要があると思います。それも今までのように上から目線ではなく、どちらかというと下から目線で。それはとても僕一人じゃできないので、色々人がやってくれるといいなと思ってます。

本屋に人がこないならば人がいるところに本を持っていく

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本にまつわる仕事を引き受ける会社・BACHを始めてからは、1日1日生き切るだけという感じですね(笑)。僕はもともと本屋さんでエプロンをしながら本を売っていたんですよ。2000年になったくらいで、ちょうどイーコマースの本屋さんが強くなってきて本屋に来る人が減ったんです。それならば、人がいる場所に本を持っていこう、という初期衝動があってBACHを始めているので、それはうまく継続できているんじゃないかなと思っています。

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プロフール

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本がもうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。羽田空港「Tokyo's Tokyo」や東北大学工学部「book+cafeBOOOK」などのショップでの選書を始め、千里リハビリテーション病院のライブラリー制作など、その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたる。著作に『幅書店の88冊』(マガジンハウス)がある。