森ビル株式会社

本と愉しくやっていくために、今話しておきたいこと(第3回)

2011年11月18日

今月のゲスト:ブックディレクター 幅 允孝さん

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ブックディレクターの幅 允孝さんが、本にまつわるあらゆることを仕事にする会社・BACHを立ち上げてから6年が経ち、その間電子書籍などの登場によって本を取り巻く環境は大き く変化してきました。11月23日にアカデミーヒルズで行われる『六本木アートカレッジ』で、「本とは愉しくやっていきたい」というトークレクチャーを開 催する幅さん。
ヒルズキャストでは、トークレクチャーを控えた幅さんに一足先にお話しを伺いました。これから本と愉しく付き合っていくにはどうし たらいいのか。「本とは愉しくやっていきたい」というテーマにたどり着くまでに何を考えたのか。そのお話には、情報に溢れる都市で楽しく暮らしていくため のヒントが詰まっています。

東京で仕事をしていくということについて
現物に触れられる強みを感じてほしい

東京は、実際に現物に触れられるということが強いですよね。本もそうです。パソコンの画面で表紙の画像や1ページ目のテキストだけ眺めてみてもその本のことはあまりわからないもので、同じ3分間を費やすのであれば、本屋さんで現物を手に取ってぱらぱらめくってみたほうがよっぽど精度の高い情報が入ってきます。
僕は今も東京に住んでいて東京を中心に仕事をしていますが、東京から遠く離れて仕事をする人も周りではすごく増えていて、それも一つの方法だとは思うんです。漫画家でも、東京ではない場所で書いて、アシスタントとスカイプでやりとりをして、という仕事の仕方はよくやられていることのようです。でも、「やっぱり会わないと通じない部分ってあるんじゃない?」とか、「手に取って話しをするから出てくるアイデアってあるんじゃない?」とか、思うこともあるんですよね。自然と違って人間はこちらがしゃべったことに対して返してきますからね。
そういう意味でも、東京のように人間がたくさんいるというのはすごく面白い状況だなと思っています。その状況で、「どうしたら全く見ず知らずの人たちに対して踏み出していけるのか」ということは最近よく考えていますね。

地方の現場での容赦のなさに鍛えられる

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東京を中心に仕事をしていますが、地方での講演やワークショップなどに呼んでいただくこともあります。僕の基本姿勢は変わらないんですが、東京よりも地方の方が親切に話さないと通じないんですよね。
東京は「この文脈は理解しているだろう」と思って、1の次、2から4までを飛ばして急に5のことを話しても、ある程度の共通認識を持っていて進めていけるところがあるんですけれど、地方では「ブックディレクターって何のこっちゃ?」というところからスタートするから、やっぱり丁寧に1つ1つ説明していかなくてはいけない。
共通認識のない、容赦ない場所ですよね。そういう場所で仕事をすると、すごく鍛えられるんです。普段、どれだけ共有されたものの多い世界で仕事させてもらっているかということがわかったりします。

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プロフール

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本がもうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。羽田空港「Tokyo's Tokyo」や東北大学工学部「book+cafeBOOOK」などのショップでの選書を始め、千里リハビリテーション病院のライブラリー制作など、その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたる。著作に『幅書店の88冊』(マガジンハウス)がある。