森ビル株式会社

建築を通して、都市と時代を見つめる(第1回)

2011年09月02日

今月のゲスト:建築史家・建築家 藤森照信さん

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建築史家・建築家の藤森照信さんは、未来の都市を作るヒントは「メタボリズム」にあると言います。「メタボリズム」は、1960年代に若い建築家の間で起きた「変化」をキーワードとする建築運動。森美術館では、『メタボリズムの未来都市展』が9月17日から1月15日まで開催されます。展覧会に先駆けて、建築に馴染みがないと聞きなれない「メタボリズム」の解説から、なぜ今「メタボリズム」なのか。そして現在日本が抱えている都市の問題まで、藤森さんにお話をしていただきました。

第1回 『メタボリズムの未来都市展』開催にあたって
建築史家にとっても楽しみな展覧会

森美術館で、『メタボリズムの未来都市展』が開催されます。メタボリズムの仕事と前後の出来事との関係を通して見られるので、私のような建築史家にとってもとても重要で大変楽しみな展覧会です。
現在では「メタボリズム」という言葉は現代病の名前として広く認知されていますが、もともと生物学用語で「新陳代謝」を意味します。建築でいう「メタボリズム」とは、若い建築家たちによるある建築運動の運動体の名前を言います。
世代的には丹下健三さんの弟子の世代、直弟子にあたる黒川紀章さんや槇文彦さん、丹下さんの影響を強く受けていた菊竹清訓さん、そして丹下さんと非常に親しかった評論家の川添登さんなどが立役者となった、「丹下健三さんの弟子世代の新しい運動」と考えるとわかりやすいでしょう。丹下健三さんは、日本で初めて世界の前衛的な建築に影響を与えた個人の建築家ですが、メタボリズムは、グループとして日本で初めて世界に影響を与えた建築運動です。

現代建築が大きな転換期を迎えている

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茶室 徹

メタボリズムには、高度成長期も終わりがけ、日本の経済力が世界のレベルに近づいて都市が激変期に当たっていたという時代背景があります。あるものを壊して新しいものを作り出すという「新陳代謝」のムードが社会全体を覆っていたのを建築でリードしていこうと建築家たちが立ち上がり、メタボリズムが始まりました。それまで建築というものは社会に対して遅れ気味に動いていたのですが、もっと積極的に社会をリードしようというのは、あの世代が初めてだったのではないでしょうか。
なかでも中心的だったのは黒川紀章さんで、「中銀カプセルタワービル」(※)は、一般的にも注目を集めた建築でした。今このタイミングで展覧会が行われるのには、現代建築がまた大きな転換期を迎えているということが関係しています。

※中銀カプセルタワービル:1970年設計、1972年施工された黒川紀章によって建築された集合住宅。世界で初めて実用化されたカプセル建築と呼ばれている。技術的には、二本の高張力ボルトのみでコンクリートコアシャフトに取り付けられたカプセルは、実際にはずして新しいカプセルと交換されるよう、技術開発がなされている。カプセル建築は、単身者用の宿泊、デン(書斎)として想定されたが、家族用としては、数個を扉でつなぐことによって可能となるよう計画された。 カプセルの内装は、電化製品や家具、オーディオ、TV、電話まで工場でセットされ、現地でクレーン車によって吊上げれらてシャフトに固定された。1996年Docomomo Internationalの国際委員会により、世界遺産にノミネート。2006年 Docomomo Japan-日本近代建築125選に選ばれた。

森美術館『メタボリズムの未来都市展』

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会期:2011年9月17日(土)~2012年1月15日(日)

『メタボリズム』とは、「生物が代謝を繰り返しながら(生物学用語で“メタボリズム”は“新陳代謝”を意味する)成長していくように建築や都市も有機的に変化できるようデザインされるべきである」というマニフェストとして、1960年代に日本で発表された建築理論です。
本展は、『メタボリズム』に今日どのような意義があるのかを問いかける、世界で初めての展覧会となる。メタボリズム運動誕生の背景となった丹下健三の思想・事蹟と、1960年代を中心とした『メタボリズム』の活発な活動、1970年の大阪万博までを資料、模型などで紹介します。

プロフール

建築史家・建築家。1946年、長野県生まれ。茅野市で神長官守矢史料館(1991年)を設計し建築家としてデビュー。自然素材や植物を用いて、これまでに20作品以上の独創的な建築を創り続けている。藤森、友人、施主からなる「縄文建築団」が建築施工に参加し手作りすることもその特徴となっている。1997年、作家・赤瀬川原平の自宅として設計した「ニラハウス」で第29回日本芸術大賞。2001年には、「熊本県立農業大学校学生寮」で日本建築学会賞(作品)を受賞。2006年の第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展では日本館のコミッショナー(兼出品者)に就任、自身の建築と、路上から観察できる森羅万象を対象とし、無用の「美」を採集する路上観察を紹介した。