森ビル株式会社

人を、社会を幸せにする、笑顔のデザイン(第2回)

2011年06月10日

今月のゲスト:アートディレクター 水谷孝次さん

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人々の「笑顔」を伝えるデザインを手掛ける、アートディレクターの水谷孝次さん。大手企業の広告制作を手掛けていた水谷さんは、99年に<Merry Project>を開始。それから10年以上、「笑顔は世界共通のコミュニケーション」を合言葉に世界中で人々の笑顔の写真とメッセージを集め、傘やポスターにして各地に拡散する活動を続けてきました。震災が起きてからは、「今こそ笑顔の力が必要だ」という想いを胸に被災地を訪れ、希望を持って強く生きる人々の笑顔を集める活動を行っています。
水谷さんが信じる「Merry」(楽しい・幸せ・夢いっぱい)な笑顔の力が、これからどのように街に広がっていくのか、お話を伺いました。

第2回 人を幸せにするデザインを仕事にしたい
自分の笑顔が、周りを笑顔にすると気付いて

僕の父親は、戦争で傷を負って非常に大変な思いをした人でした。幼いなりに戦後のあまり明るくない雰囲気をどうにかしたいと思っていて、家族や近所の人を笑顔にするのも、自分の笑顔だということに気が付いたんです。
それで、3歳の時から、「将来、僕は絶対みんなを笑顔にする仕事がしたい」と決心しました。そこから商業デザインの会社に就職してデザインをやっていたのですが、商品を売るための企業のポスターばかり作りながら「これで本当に人や社会、地球を幸せにすることができているのか?」と疑問も抱えていました。そうして1999年に、いよいよ3歳の時からの思いを遂行出来る時が訪れたんです。旅先のバスの中で偶然出会った少女たちとのほんの数分の瞬間を写真集『Merry』としてまとめて出版。翌年には、ラフォーレミュージアムで『Merry at Laforet 2000』(※1) という展覧会を開催しました。

<Merry Project>発足のきっかけはラフォーレミュージアムだった

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それまでは世紀末のムードに引っ張られてか、サブカルチャーが注目され、どちらかというと「死」をテーマにしたアートやクリエイティブが目をひいていました。でも僕は、これからは「笑顔」がアート・デザインやコミュニケーションの中心になっていくだろうと確信していて、『Merry』を出版するに至ったんです。
出版に合わせて、ラフォーレミュージアムのキュレーターの武村さんに「『Merry』という写真集を出版することになったのでポスターを張ってくれませんか?」とお願いしに行きました。すると、逆にラフォーレミュージアムで『Merry』展をやらないかというお話をいただいたんです。そうして展覧会も開催することになりました。やはり僕の究極の仕事はデザインで人を幸せにすることなんだと改めて確信しました。人に「希望と勇気」を与えるようなことをライフワークとしていこうと決めたんです。

※1 写真集『Merry』(INFASパブリケーションズ)の発売を記念して、ラフォーレ原宿で開催された展覧会。原宿で出会った女の子たちに「あなたにとってMerry(楽しいこと・幸せなとき・将来の夢など)は何ですか?」と尋ね、彼女たちの笑顔の写真とメッセージでポスターを制作。どんどん会場でプリントされていくポスターは、ラフォーレミュージアムと店内の壁という壁にインタラクティブアートとして展示されていった。

プロフール

アートディレクター。1951年、名古屋市生まれ。日本デザインセンターを経て、83年水谷事務所設立。80年代、数々の大手企業の広告を手がけ、 1982年 東京ADC賞をはじめ、JADGA新人賞、N.Y.ADC国際賞・金賞・銀賞、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ展金賞・銅賞・特別賞、ブルーノ国際グラフィックデザイントリエンナーレ銅賞・特別賞、コロラド国際ポスター招待展最高賞、世界ポスタートリエンナーレトヤマ銅賞ほか、国内外のグラフィックデザイン界において数々の賞を受賞。99年より「MERRY PROJECT」を開始。05年愛知万博「愛・地球広場」、08年北京オリンピック、10年上海万博などに招聘。現在、東日本大震災支援プロジェクト「MERRY SMILE ACTION」を展開中。「みんなの笑顔は未来への希望」というメッセージをコンセプトに、被災地に笑顔を増やすため、東北地方で希望を持って生きる人々の笑顔を取材している。これまで世界26カ国で撮影した30,000人以上の笑顔はウェブサイトで閲覧することができる。近著に『デザインは奇跡を起こす』『東日本大震災を乗り越えて・ともに生きる』(PHP研究所)。