森ビル株式会社

ピアニストとして、中村紘子が伝え続けたいこと(第3回)

2010年07月16日

今月のゲスト:ピアニスト 中村紘子さん

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ピアニストとしてデビュー50周年を迎えた中村紘子さん。日本人初の入賞と併せて最年少で受賞した第7回ショパン・コンクールを始め、数々のコンクールで入賞。その演奏は高く評価され、3500回を超える演奏会で世界中の観客を魅了してきました。
また、国際的なピアノコンクールで審査員を歴任し、著書『チャイコフスキー・コンクール~ピアニストが聴く現代~』(中央公論新社刊)で第20回大宅壮一ノンフィクション賞を、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)で文藝春秋読者賞を受賞するなど、文筆業にも積極的に取り組まれています。「ピアノはメッセージを伝えるための手段」と話す中村さん。演奏会で訪れた世界の国々で感じた、都市の在り方や、聴衆との出会いについて話を聞きました。

第3回 一期一会のコンサートで心に決めていること
演奏家として醍醐味を味わえるのは反応が良い聴衆に巡り会えた時

私が好きな言葉は、「豚もおだてりゃ、木に登る」。デビュウしたばかりの新人にも大ヴェテランの巨匠にも、聴衆の拍手は最高のビタミン剤。つい乗せられて名演をしてしまいます。
コンサートは、レコーディングとは全く違って、予期せぬことが起きるライブの魅力があります。「ここを聴いてほしい」と思っているポイントで、ぱっと反応が良い聴衆に巡り合えた時には、演奏家としての醍醐味を味わうことができます。日常生活では起こり得ない、他の何にも代えがたい喜びです。それがあるから、50年続けられているのかもしれません。
演奏家はかなり度胸が据わっていないとできない仕事です。知らないホールに行って、自分の物ではないピアノで、見ず知らずの様々な想いを抱いた人達の前で、一か八かの勝負をするのですから。そういった状況での自分のコンディションも含め、コンサートは一期一会。「もしかしたら、ここで弾くのは、私の一生で最後かもしれない」と思って、その場その場でベストを尽くしたいと思いながらやっています。

プロフール

東京生まれ。3歳で、桐朋学園音楽科の前身『子供の為の音楽教室』第一回生として井口愛子氏に師事。慶応義塾中等部3年在学中に、第28回音楽コンクールにおいて史上最年少で第1位特賞受賞。翌年、NHK交響楽団初の世界一周公演のソリストとしてデビュー。以後、国内外で3500回を越える演奏会を行う。チャイコフスキー・コンクール、ショパン・コンクールをはじめ数多くの国際コンクールの審査員を歴任する。2009年、恩賜賞・日本芸術院賞・紫綬褒章受章。秋にデビュー50周年を迎えた。著書に、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)『コンクールでお会いしましょう~名演に飽きた時代の原点~』(中央公論新社刊)他。