森ビル株式会社

ピアニストとして、中村紘子が伝え続けたいこと(第2回)

2010年07月09日

今月のゲスト:ピアニスト 中村紘子さん

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ピアニストとしてデビュー50周年を迎えた中村紘子さん。日本人初の入賞と併せて最年少で受賞した第7回ショパン・コンクールを始め、数々のコンクールで入賞。その演奏は高く評価され、3500回を超える演奏会で世界中の観客を魅了してきました。
また、国際的なピアノコンクールで審査員を歴任し、著書『チャイコフスキー・コンクール~ピアニストが聴く現代~』(中央公論新社刊)で第20回大宅壮一ノンフィクション賞を、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)で文藝春秋読者賞を受賞するなど、文筆業にも積極的に取り組まれています。「ピアノはメッセージを伝えるための手段」と話す中村さん。演奏会で訪れた世界の国々で感じた、都市の在り方や、聴衆との出会いについて話を聞きました。

第2回 高い水準を誇る日本のクラシック音楽の土壌
日本の聴衆は良い耳を持っている

「今日は良い演奏ができたな」と思うのは、色々な要素が総合してプラスに働いた時。いくらコンディションが良くても響きの悪いホールでは納得のいく演奏はできません。
今、東京には2,000人収容できる席数を持ったホールも5つぐらいありますし、東京都23区、東京都下まで含めて、良いホールは山のようにあります。個人的には、プロデュースがあまり上手くいっていないのではないかという懸念の点も感じていますが、日本の聴衆は非常に良い耳を持った経験豊かな人がたくさんいらっしゃいますし、環境という面では、世界を見渡してもトップレベル。日本ほど、演奏家にとって良い環境を提供してくれる国は、他のどこにもありません。ニューヨークやロンドン以上にクラシックの音楽家が活躍し得る可能性を持った街ではないかと思っています。
なかでも私が好きなホールは、日本で一番最初にできた音楽専用ホールである上野の東京文化会館。客席がオペラハウスのように半円を描いていて、聴衆の熱気や雰囲気を直接に感じられます。いつも弾く方なので実は客席で演奏を聞いたことはあまりないのですが、いつも皆さんに「とてもいい音響だ」と言っていただきます。

プロフール

東京生まれ。3歳で、桐朋学園音楽科の前身『子供の為の音楽教室』第一回生として井口愛子氏に師事。慶応義塾中等部3年在学中に、第28回音楽コンクールにおいて史上最年少で第1位特賞受賞。翌年、NHK交響楽団初の世界一周公演のソリストとしてデビュー。以後、国内外で3500回を越える演奏会を行う。チャイコフスキー・コンクール、ショパン・コンクールをはじめ数多くの国際コンクールの審査員を歴任する。2009年、恩賜賞・日本芸術院賞・紫綬褒章受章。秋にデビュー50周年を迎えた。著書に、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)『コンクールでお会いしましょう~名演に飽きた時代の原点~』(中央公論新社刊)他。