森ビル株式会社

ピアニストとして、中村紘子が伝え続けたいこと(第1回)

2010年07月02日

今月のゲスト:ピアニスト 中村紘子さん

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ピアニストとしてデビュー50周年を迎えた中村紘子さん。日本人初の入賞と併せて最年少で受賞した第7回ショパン・コンクールを始め、数々のコンクールで入賞。その演奏は高く評価され、3500回を超える演奏会で世界中の観客を魅了してきました。
また、国際的なピアノコンクールで審査員を歴任し、著書『チャイコフスキー・コンクール~ピアニストが聴く現代~』(中央公論新社刊)で第20回大宅壮一ノンフィクション賞を、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)で文藝春秋読者賞を受賞するなど、文筆業にも積極的に取り組まれています。「ピアノはメッセージを伝えるための手段」と話す中村さん。演奏会で訪れた世界の国々で感じた、都市の在り方や、聴衆との出会いについて話を聞きました。

第1回 ピアニストとしてデビュー50周年を迎えて
時代の幸運や、個人的な幸運に恵まれた

今年でピアニストとしてデビューして50年を迎えました。あっという間でしたね。時代の幸運という大きなものから、私個人の幸運という小さなものまで、50年間という長い間ピアノを続けていられたのは、色々な幸運があったから。
それは健康面についても言えることで、私はピアニストを続けるには「一に健康、二に健康で、才能はその後」だと思っているんです。今や、一日一日老いていくのに抵抗しているわけですから、弾きたいことを弾きたいように弾くようにするには、いかに自分の体調を整えて、自分が練習するか。他に方法はありません。

ピアノを通じて自分自身を見つめる

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「中村紘子デビュー50周年記念アルバム」

ステージで音楽を奏でることで、自分の気持ちやメッセージを聴衆にはっきりと伝えるのはとても難しいことなんです。ピアノには音符や楽譜があるから、何も考えなくても弾けてしまう。だからこそ、自分が考えていることを凝縮して、具体的に表現するというのは、自分自身を見つめる訓練になります。
50周年を迎えて「長い間ピアノを続けているのはどうしてですか?」と聞かれることがあるのですが、「ピアノを弾くという行為が、自分自身を見つめる一番冷静ではっきりとした良い手段だから」というのが、ひとつの答えです。ピアノの技術はとても込み合っていて、すぐにはマスターできない。多くの人がつい指先のことばかりこだわってしまうのですが、それはあくまで基本です。ピアノとは自分が言いたいことを伝えるための手段。自分が明確に音の隅々まで把握して、それをどう聞いている人に伝えたいか、ということを感じていないと、人に伝わるようなピアノは弾けません。

プロフール

東京生まれ。3歳で、桐朋学園音楽科の前身『子供の為の音楽教室』第一回生として井口愛子氏に師事。慶応義塾中等部3年在学中に、第28回音楽コンクールにおいて史上最年少で第1位特賞受賞。翌年、NHK交響楽団初の世界一周公演のソリストとしてデビュー。以後、国内外で3500回を越える演奏会を行う。チャイコフスキー・コンクール、ショパン・コンクールをはじめ数多くの国際コンクールの審査員を歴任する。2009年、恩賜賞・日本芸術院賞・紫綬褒章受章。秋にデビュー50周年を迎えた。著書に、『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋刊)『コンクールでお会いしましょう~名演に飽きた時代の原点~』(中央公論新社刊)他。