森ビル株式会社

原 研哉が見つめる理想の都市とデザイン(第4回)

2010年06月25日

今月のゲスト:グラフィックデザイナー 原 研哉さん

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展覧会「REDESIGN」や「SENSEWARE」の総合ディレクションや、無印良品のアートディレクションなどを手掛けるグラフィックデザイナーの原研哉さん。日本文化の「粋」や「間」の思想に根付いた、過剰な装飾を排したシンプルなデザインが国内外で支持されています。
原さんが語る都市やデザインの話からは、彼がデザイナーとして大切にしている「コミュニケーション」や「日本の美意識」といったキーワードが浮かび上がってきました。

第4回 コミュニケーションは「知りたい」という欲求から生まれる
人々のイメージから脱却するためのブランディング

物事を知っているつもりになってしまうことが、一番つまらないと思っているんです。ある対象に対して、自分がどれだけ知らないかを思い知ったときに、知りたいという能動性が発揮される。「知りたい」と思うことが、コミュニケーションの基本なのです。
企業も同じで、例えばブランディングと一言に言っても、ロゴマークを作って、包装紙をきれいにして、接客マナーをちゃんとするだけで、すぐにブランドのイメージが定着するほど人間は単純じゃない。むしろ知識や思考が深まる中で、一筋縄でいかない未知なる部分がたくさん出てくるほどに、人はその対象に興味を持つようになります。だから「私の企業はこうです」と情報を出していくばかりではなくて、むしろ「この企業のことをもう少し知りたいな」と思ってもらうために、安易な理解からはむしろ逃げ続けるために考え続けていくことが重要です。人々が思い描くイメージから逸脱するようにふるまうことが、企業の魅力に奥行きを作ります。

デザインは、人の脳みそを使って考える

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TOKYO FIBER '09 「SENSEWARE」展
フォトグラフィ:ナカサ&パートナーズ

デザインをする時に、スタッフや学生にいつも言っていることがあります。それは「人の脳を使って考えよう」ということ。デザインというのは、自分で決めつけるものではなくて、人の反応から導かれるものです。
コウモリがピンガーを物に反射させて自分の位置を把握するのと同じように、「みんなはこれが使いやすいんだ」とか「みんなはここで笑うんだ」と、他人の頭に反射させて理解していくことがとても大切。だから僕も、アイディアが思い浮かんだらすぐに、「このアイディア、どう?」とスタッフや学生に問いのピンガーを打って、色々な人の脳を反射させてデザインを考えていくことが一つの習慣になっています。
「誰がどう言おうと僕はこう思う」という表現ができるところがアートの魅力ですが、デザインはみんなに共有される部分を探りあてていくことが大事なのです。

プロフール

1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表。武蔵野美術大学教授。展覧会「REDESIGN」や「TOKYO FIBER / SENSEWARE」など、デザインの領域を広く捉えて多方面に渡るコミュニケーションプロジェクトを生み出している。2001年より、無印良品のボードメンバーとなり、2003年度東京アートディレクターズクラブ賞グランプリを受賞。書籍に関連するデザインでは講談社出版文化賞、原弘賞、亀倉雄策賞、一連のデザイン活動に対して日本文化デザイン賞を受賞するほか内外で数多くの賞を受賞している。著書に『デザインのデザイン』(岩波書店/サントリー学芸賞受賞)、『白』(中央公論新社)、『なぜデザインなのか。』(平凡社/共著)「『ポスターを盗んでください+3』(平凡社)ほか多数。