森ビル株式会社

原 研哉が見つめる理想の都市とデザイン(第3回)

2010年06月18日

今月のゲスト:グラフィックデザイナー 原 研哉さん

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展覧会「REDESIGN」や「SENSEWARE」の総合ディレクションや、無印良品のアートディレクションなどを手掛けるグラフィックデザイナーの原研哉さん。日本文化の「粋」や「間」の思想に根付いた、過剰な装飾を排したシンプルなデザインが国内外で支持されています。
原さんが語る都市やデザインの話からは、彼がデザイナーとして大切にしている「コミュニケーション」や「日本の美意識」といったキーワードが浮かび上がってきました。

第3回 日本人の高い美意識がこれからどう作用するか
成田空港で実感する、日本人の美意識の高さ

ただ物を作るということだけでは産業は成り立たず、日本も新たな産業のビジョンを作っていかなければならない時代です。
今、新たな産業のビジョンを考える上で僕が興味があるのは、住まいや暮らしの形。日本人は、とても高い美意識を備えているんです。海外から成田空港に帰ってくるといつも思うのですが、空港の建物は決して先端的とは言えないし、非常にステレオタイプで面白い空間とは言えないけれども、すごくよく掃除がされていて床がピカピカ。本当に驚くほどきれいです。掃除をする人々が頑張っているということはもちろんですが、それを一つの常識として通用させている日本の感受性が、大きな資源だと思うんです。

欲望の水準が、デザインアウトプットを変化させる

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TOKYO FIBER '09 「SENSEWARE」展
フォトグラフィ:ナカサ&パートナーズ

デザインのアウトプットは、その街に住んでいる人たちの欲望の水準に左右されます。東京は欲望の潜在力がすごく高い街。しかしながら、家の形がいまひとつ面白くないんです。おそらくは良い欲望のエデュケーションを受けてこなかったからではないでしょうか。都市に住むのはお金もかかりますし、ほしいままに土地を入手して家を作るのが簡単ではない。おのずとマンションや公団の間取りで教育されるわけです。そのせいで、住まいの形の作り方が面白い方向に開花しなかった。
しかしながら、今の東京はリノベーションもさかんになり、自分たちの暮らし方にあった住まいのかたちを主体的に考えていく気運が高まっています。ですから、これからは住居や住まい方が面白く展開されていくと思います。この気運を上手に盛り上げていけば、そんなに時間のかからないうちに、世界で一番進化した地域のひとつに成長していけるのではないでしょうか。

プロフール

1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表。武蔵野美術大学教授。展覧会「REDESIGN」や「TOKYO FIBER / SENSEWARE」など、デザインの領域を広く捉えて多方面に渡るコミュニケーションプロジェクトを生み出している。2001年より、無印良品のボードメンバーとなり、2003年度東京アートディレクターズクラブ賞グランプリを受賞。書籍に関連するデザインでは講談社出版文化賞、原弘賞、亀倉雄策賞、一連のデザイン活動に対して日本文化デザイン賞を受賞するほか内外で数多くの賞を受賞している。著書に『デザインのデザイン』(岩波書店/サントリー学芸賞受賞)、『白』(中央公論新社)、『なぜデザインなのか。』(平凡社/共著)「『ポスターを盗んでください+3』(平凡社)ほか多数。