森ビル株式会社

原 研哉が見つめる理想の都市とデザイン(第2回)

2010年06月11日

今月のゲスト:グラフィックデザイナー 原 研哉さん

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展覧会「REDESIGN」や「SENSEWARE」の総合ディレクションや、無印良品のアートディレクションなどを手掛けるグラフィックデザイナーの原研哉さん。日本文化の「粋」や「間」の思想に根付いた、過剰な装飾を排したシンプルなデザインが国内外で支持されています。
原さんが語る都市やデザインの話からは、彼がデザイナーとして大切にしている「コミュニケーション」や「日本の美意識」といったキーワードが浮かび上がってきました。

第2回 全体のバランスを考えて「都市をつくっていく」ために
都市化への欲望が生む、都市を牽引していく力

森ビルは、都市のことを都市というスケールで考えている会社だと思います。不動産を扱っている多くの企業が都市を構想するためには、何十年もかけて土地を集めて、全体のバランスを考えながら地道に進めていかないとリアリティがない。
森ビルの都市化という目標に向かって地道な努力を継続してきたところは、とても特殊だと思います。一つの会社で都市を構想できる会社は少ないかもしれません。森稔社長は、ル・コルビュジェの『輝く都市』に描かれていた都市の理想像を頭の中にずっとお持ちです。「都市をつくっていく」ということに対する欲望がとても強い方だと思います。それが、森ビルが都市を牽引していく力になっているんでしょう。

人々の能動性を誘い合うようなメディアを

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森ビル VI計画
アートディレクション&デザイン:原研哉
デザイン:下田理恵

僕の専門であるグラフィックデザインには、人の印象や記憶や動機に対して働きかけていくことで、ある物事を社会に浸透させたり前に進めたりする役割があると思っています。新しい産業の形を可視化していく、企業コミュニケーションに力を添えることもグラフィックデザイナーの仕事ですが、アドバタイジングという発想はそろそろ次のステージへと移りつつあるのではないでしょうか。いくら広告がヒットしようと、消費者は自分が必要な物に確実に辿りつく知恵もメディアもちゃんと持っている。
だから、僕らは従来のようにメディアを通して投げかける情報を作るのではなくて、ユーザーの能動性を受け止めるための新しい受け皿を用意する必要があります。例えば、ミシュランガイドのようなアイデアは、ユーザーやレストランの能動性、そのメディアを用意した企業の能動性など、色々な人の能動性を誘い合うことができるメディアとして進化させることができる。コミュニケーションをデザインするデザイナーは、そういう新しい情報のかたちをどうやって立ち上げるかということを考えていかなければいけません。

プロフール

1958年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表。武蔵野美術大学教授。展覧会「REDESIGN」や「TOKYO FIBER / SENSEWARE」など、デザインの領域を広く捉えて多方面に渡るコミュニケーションプロジェクトを生み出している。2001年より、無印良品のボードメンバーとなり、2003年度東京アートディレクターズクラブ賞グランプリを受賞。書籍に関連するデザインでは講談社出版文化賞、原弘賞、亀倉雄策賞、一連のデザイン活動に対して日本文化デザイン賞を受賞するほか内外で数多くの賞を受賞している。著書に『デザインのデザイン』(岩波書店/サントリー学芸賞受賞)、『白』(中央公論新社)、『なぜデザインなのか。』(平凡社/共著)「『ポスターを盗んでください+3』(平凡社)ほか多数。