森ビル株式会社

坂本龍一から次の世代に伝えたいこと(第3回)

2010年04月16日

今月のゲスト:音楽家 坂本龍一さん

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東京で生まれ育ち、ニューヨークを拠点に世界中で活躍している音楽家の坂本龍一さん。現在もローマでインスタレーション展示「LIFE- fii...」(ライフ・エフアイアイ...)を開催中です。世界の様々な都市を舞台に活動する坂本さんの話からは、都市やそこで暮らす人々に対する想い、考え方が浮かび上がってきました。
「もっと木を」というコンセプトで森の保守などを行う『more trees』や、音楽に携わる人々の共有地を目指すレーベル『commmons』、そして中学生や高校生を対象にワークショップを行いながら進行するテレビ番組『“スコラ”坂本龍一 音楽の学校』など、多岐に渡る活動のひとつひとつには、坂本さんのその考えを背景にした、次世代に伝えていきたい想いが込められています。

第3回 東京とニューヨークを行き来して
都市の違いとそこから生まれる制約の利点

僕が暮らしているニューヨークという都市には、世界中の人が集まっています。それぞれのナショナリズムを持ち寄って、喧嘩が起きない程度に紳士的にやり合う、ということが起きる空間です。これだけ情報技術が発展しても、やはり東京とニューヨークではいる場所によって思想形態も違います。周りの人間、それから言語、色々な風土や歴史の影響は大きいですね。
先日、ローマで仕事をしていました。当然東京の常識もニューヨークの常識も通用しない、インフラも違う、と色々違う面があるなかで、仕事はきちんと期日までにやらなくてはいけない。そうなると当然、現場で働いている人達との接し方も違ってくるわけです。でも、そういう制約は、逆にいいことだと思うんです。自分の常識を一度疑ってかかるというのは大事なことですから。その分、自分たちが豊かになっていきますからね。

面白いことが生まれる都市の条件

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HILLS CAST収録風景

東京やニューヨークは、お金のある人にとってはとても快適な空間かもしれないけれど、お金がなくて野心や才能がある若い人にとっては、あまり自分の才能を発揮できる都市ではないと思います。対して、僕がなかなか良いなと思っているのはベルリンですね。
ベルリンが良い理由は簡単で、物価が安いから。家賃も安くて、少ないお金ですごく良い空間を借りられる。それで、目利きのコムデギャルソンも1年間の実験的なストアをやっていたりする。ブルガリアやハンガリーなど、ヨーロッパ中から若いデザイナーやアーティストがベルリンに集まっていて、ヨーロッパ中の情報や若いエネルギーが集結しています。あと物価が安くて一番良いのは、何かトライしても失敗できるということです。失敗しても1、2年あれば取り返せる。東京やニューヨークで、お店を出して失敗したら、一生そのお金を返すために費やさなくちゃいけなくなるから、実験的な面白いことはできないですよね。そういう所からは面白いことは生まれない、というのが僕の持論なんです。

プロフール

1952年東京生まれ。東京芸術大学大学院修士課程修了。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年、 細野晴臣、高橋幸宏と『YMO』を結成。1984年、自ら出演し音楽を担当した『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞他を、映画『ラストエンペラー』の音楽でアカデミー賞、グラミー賞他受賞。環境・平和問題に言及することも多く、アメリカ同時多発テロ事件をきっかけとした論考集『非戦』を監修。自然エネルギー利用促進を提唱するアーティストの団体artists'powerを創始するなど、活動は多岐にわたっている。 1990年より米国、ニューヨーク州在住。avexと共に『commmons』を設立。2010年4月より、NHK教育にて音楽レギュラー番組『“スコラ”坂本龍一 音楽の学校』がスタート。