森ビル株式会社

現代美術作家が見た歴史と都市と世界(第4回)

2010年03月26日

今月のゲスト:現代美術家 杉本博司さん

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現代美術家の杉本博司さんは、「劇場」や「海景」などの作品が世界的に高く評価され、精力的に作品を発表し続けてきた。2009年に伊豆にオープンした『伊豆フォトミュージアム』や、現在進行中の文化財団の設立、U2の最新アルバムのジャケットワークなど、活躍の場をさらに広げている。芸術で得たお金は芸術に還元するという杉本さんは、現代美術家と言う視点から、社会へのメッセージを発信している。

第4回 高度経済“逆”成長理論

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「杉本博司:時間の終わり」展
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

U2のボノともよく話すのですが、地球規模でのこれからの人口規模を考えると、「エイズでアフリカの何十万人の子どもを救おう」とか、運動をされていますが、人口問題こそが最大の問題であって、これ以上人間が増えたら地球が壊れてしまう。だから、君たちのやっている「エイズで子どもを救う」というのは、逆に地球にとって悪という批判も一方ではあるわけですよね。僕が考えているのは、地球規模で考えたときの経済成長はプラスではなくマイナス成長で良い。
地球規模で、経済成長はプラスになっていくわけではないということです。こういうことはあまり言ってはいけないことかもしれませんが、「成長が未来を明るくする」というふうに考えるのではなく、成長には限界があるので、僕が考えているのは、経済はむしろマイナス成長で良い。例えば、年間2%のマイナスで、人口減少率が4%だとすると、差し引き2%の成長で、1人当たりの幸福度は確保される。日本の人口は、減少していっているので、これは、ある意味で僕は非常に良いことだと思っているんです。少子化によって、1人当たりの空間も増えていくし、総生産を維持していけば、1人当たりが豊かになっていく。高度経済成長じゃなくて、高度経済“逆”成長という理論を、考えています。
成長しないことによって逆に豊かになるというのは、ノーベル賞ものじゃないかと思うのですけれどね(笑)。

これからの地球をアートの視点から考える

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「杉本博司:時間の終わり」展
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

2010年の5月には、僕も招待されているシドニービエンナーレが開催されます。シドニー湾に浮かぶ、コカトゥ・アイランドという島があり、そこの廃虚と化した19世紀の巨大な発電所の跡に、巨大な発電機がゴロゴロとまだ置いてある。
そこに、13世紀の雷神像を持っていくと、あたかも13世紀の鎌倉時代の雷神が、19世紀の発電所を活性化しているというようなインスタレーションを行います。これは、実に面白いと思います。
2010年11月からは、丸亀市の猪熊弦一郎美術館で、1年間丸々『杉本展』を開催する予定です。1年間通して同じ展示をするのではなく、『宗教』『科学』『建築』『歴史』の4つのテーマに分け展覧会を行う。それぞれカタログも4冊制作し、5冊目がインスタレーションの写真集にして、1年間で5冊組みのカタログができるということを今計画しています。
僕がアートを考える場合には、どうしても“時間性”“ 歴史性“が関わってきます。時間を考えるにあたって、人間の意識の発生の現場ということを考えます。どうして人間だけが、他の哺乳類とは違い意識を持つようになったのでしょうか。
意識を持ち始めてから、恐らく100万年ぐらいは経っているのではないかと思うのですが、その中で、文明時代はたったの5000年ほどです。ルーシーやアーディという類人猿、直立二足歩行が320万年前、460万年前くらいから、だんだん意識が芽生え、文字が書けるようになってから約5000年ですから、大した時間じゃないですよね。
そういうことを考えていくと、人類はこれからどうなっていくのかということも必然的に考えてしまいます。特に近代化以後の150年200年は、もう地球史や人類史に比べれば瞬間的なことなので、壊れるのも早いと思うんですよ。
ここ100年、150年は、相当無茶しちゃいましたね。つけは早く回ってくると思いますよ、これは(笑)。

プロフール

1948年、東京生まれ。立教大学経済学部卒業後、1970年に渡米。ロサンジェルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、ニューヨークに移住。以降、ロサンジェルス現代美術館、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、カルティエ財団など世界の著名美術館での個展のほか、数多くのグループ展、国際展に参加。1989年「毎日芸術賞」、2001年「ハッセルブラッド財団国際写真賞」受賞。現在、ニューヨークと東京在住。