森ビル株式会社

二つの展覧会から発信する森村泰昌の世界(第2回)

2010年03月12日

今月のゲスト:美術家 森村泰昌さん

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ゴッホ、マリリン・モンロー、三島由紀夫まで、自ら歴史上の人物に扮装して撮影するセルフポートレイトという表現を追求し続ける、美術家の森村泰昌さん。『六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?』(森美術館にて3月20日から7月4日まで)での他のアーティストとの共演や、「20世紀の男たち」をテーマとする新作シリーズを紹介する展覧会『森村泰昌・なにものかへのレクイエム-戦場の頂上の芸術』(東京都写真美術館にて3月11日から5月9日まで)で、さらなる表現の広がりを見せる。自分と「その他の何か」、そして地元・大阪と東京を行き来する森村泰昌さんの視点は、何を捉えているのだろうか。

第2回 森美術館の可能性

これまでは欧米を中心とした西洋美術史やアメリカ美術が中心だったような気がするけれど、1990年代ぐらいからいろいろな形でグローバル化が進みました。当然のことながら、何かものを作ったりする人が、地球の至るところにいるんですよ。そのことに世界の人が気付き始めたんです。当然、日本にも面白いものを作る人はたくさんいて、それは大阪にも、九州にもいる。今の時代は美術の表現の場においても、幅が広がってきたような実感があります。
 六本木という街は、いまや巨大な街になりました。森ビルの六本木ヒルズも、展望台は一大観光名所になり、たくさんの人が来ますし、普段、美術館や展覧会に行くことのない方々も、展望台に行ったときに、森美術館に「何か展覧会をやっているぞ」と興味を持って観に来てくれることがある。そういう可能性が、森美術館にはすごくあるんですよね。小さな美術の領域だけで展覧会をやっていればコアな人はたくさん来ますけれど、そうじゃない広がりというのが、六本木ヒルズの森美術館にはあるような気がします。多くの人に作品を観ていただけるチャンスですので、皆さんがどんな反応をするのか非常に楽しみなんです。

森美術館でのグループ展、東京都写真美術館での個展

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「なにものかへのレクイエム」
(記憶のパレード/1945年アメリカ) 2010

私も出展する、『六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?』という展覧会は、グループ展なので、恐らくそれぞれとてもユニークな作品が出展されると思うんですね。どのぐらい面白く、興味深く、皆さんの心に達するか展覧会を観ていただけたらわかると思います。
一方で、恵比寿にある東京都写真美術館では『森村泰昌・なにものかへのレクイエム-戦場の頂上の芸術-』という個展を開催します。グループ展と個展と、同時期に両方参加することになります。
 個展は、「全部1人で責任を背負わないといけない」、「全部を自分で仕切らないといけない」という、大変なんだけれど、大変であるがゆえの面白さという醍醐味があります。いろいろな人と一緒に展覧会をするグループ展は予測がつかないので、その予測がつかない面白さというものがありますね。
例えば個展は、1人で講演会をして全部自分で、最初から最後まで計画を立ててお話しをするのと同じです。
対してグループ展というのは、パネルディスカッションとか、だれかとのトークショーのような雰囲気だと思うんですよ。だから、「私はこういう話をしたい」と思っていても、相手が全然違うことに興味を持って入れば、違った話題になりますよね。そんな風にして、何人もの人が集まって1つの展覧会を構成すると、予測のつかない結果になるんです。その予測のつかない結果が、1人でやっていることよりもっと広がりが出れば、良い展覧会になる。でも、それぞれの表現が邪魔しあうようになってしまうと、せっかくの、思いがけない面白さというのがなくなってします。『六本木クロッシング』も今回どうなるのか、とても楽しみにしています。

プロフール

1951年大阪府生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業後、絵画、童話、版画、モノクロ写真などによる試行錯誤を経て、1985年、ゴッホの自画像に自らが扮して撮影するという、セルフポートレイトを発表。現在に至るまで、一貫してセルフポートレイト表現を追求してきた。1988年、ベネチアビエンナーレ/アペルト部門に選ばれ、一躍注目される。以降、海外での個展、国際展にも多数出品。また宝塚歌劇のポスターのディレクションやイッセイミヤケのプリーツプリーズ/アーティストシリーズの第一弾をてがけるなど、作品制作のノウハウを活かして、多方面に活躍中。作品集も含め著作多数。