森ビル株式会社

現代美術作家が見た歴史と都市と世界(第1回)

2010年03月05日

今月のゲスト:現代美術家 杉本博司さん

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現代美術家の杉本博司さんは、「劇場」や「海景」などの作品が世界的に高く評価され、精力的に作品を発表し続けてきた。2009年に伊豆にオープンした『伊豆フォトミュージアム』や、現在進行中の文化財団の設立、U2の最新アルバムのジャケットワークなど、活躍の場をさらに広げている。芸術で得たお金は芸術に還元するという杉本さんは、現代美術家と言う視点から、社会へのメッセージを発信している。

第1回 “森美術館の理想的な使い方”に挑戦した自身の展覧会

日本では森美術館で、2005年に「杉本博司:時間の終わり」展という、大規模な回顧展を開催しました。
リチャード・グラックマンというアメリカ人の建築家が設計した森美術館は、デコラティブなものがなくて、僕にとっては非常に使いやすかったですね。森タワーの最上階にあって自然光がきれいに入るような設計になっていますが、借りてきた作品を展示するには照度基準などたくさんの制約があるので、森美術館の設計を真に使いこなす展示はありませんでした。
でも「杉本博司:時間の終わり」展は、自分の作品を扱う展覧会ですからどうなっても構わないので、自然光を導き入れて、グラックマンの理想とする展示、美術館の展示における自然光の扱い方を初めて実験できたと思っています。建築家が、「こう使ってほしい」という気持ちが痛いようにわかるので、おこがましいですけれどそのように使ってあげたということです。

高松宮記念世界文化賞受賞へのきっかけとなった展覧会

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「杉本博司:時間の終わり」展
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

森美術館での「杉本博司:時間の終わり」展を機に、日本での認知度が上がり、そしてまた、日本人性を発信することで、海外での評価も高まりました。
それまで、展覧会は海外での開催が殆どでしたが、大規模な回顧展を初めて日本の森美術館でやろうということになって、「日本で企画した展覧会を海外巡回させる」ということをやってみたいなと思いました。そこで、ある意味で自分の日本人性を出すために、日本から発信する展覧会を作りました。アメリカでは、ワシントン、フォートウォース、テキサス、サンフランシスコを巡回し、それは非常にうまく機能したと思います。
同年、『東京―ベルリン/ベルリン―東京』展という展覧会が森美術館で開催していて、そのときにベルリンの国立美術館ノイエナショナルギャラリーの方たちが杉本展を見て、「是非開催したい」ということになり、少し形を変えて、ヨーロッパにも巡回することになったのです。これは、森美術館のおかげですね。
ヨーロッパでは、スイス、オーストリア、ドイツのデュッセルドルフK20(ケイトゥエンティ)という美術館、そしてベルリンの4館を巡回し、各地で、ドイツ語や英語のカタログ等が出版され、それが回り回って、結果として海外の評価が高くなりました。
このような、森美術館の展覧会からの流れで、2009年の高松宮記念世界文化賞受賞にもつながっていったわけです。

プロフール

1948年、東京生まれ。立教大学経済学部卒業後、1970年に渡米。ロサンジェルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学び、ニューヨークに移住。以降、ロサンジェルス現代美術館、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、カルティエ財団など世界の著名美術館での個展のほか、数多くのグループ展、国際展に参加。1989年「毎日芸術賞」、2001年「ハッセルブラッド財団国際写真賞」受賞。現在、ニューヨークと東京在住。