森ビル株式会社

芸術とはコミュニケーションであり、都市の必需品である(第4回)

2010年02月26日

今月のゲスト:日本画家 千住 博さん

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羽田空港第2ターミナルの天井画等のデザインや、トヨタ・レクサスのミラノサローネ出展の際のアートディレクションも手掛け、日本画家として世界に名を馳 せる千住博さん。現在も現役で作品を作りながら、京都造形芸術大学で学長を務める千住さんが重要視しているのが「芸術的発想」だ。人間になくてはならない もので、都市を救うキーとなる「芸術的発想」とは、一体どのようなものなのか。千住さんにお話しを伺った。

第4回 森ビルのプロジェクトで生まれた生涯の一大傑作

東京の新しい時代というものは、六本木ヒルズの誕生と共にできたと思うんです。
森ビルの街づくりは、六本木ヒルズの毛利庭園復活をはじめ、歴史に対しての位置付けをきちんと持っているように思います。世界の人々には、東京は新しくて整理されているというイメージが定着していると思うんですが、今日、ヘリコプターから街を見ていて、ときどき古いお寺なんかがあってホッとするわけです。だから、街を作るにはバランスが大事だと思うんです。森稔社長の考え方はある種、芸術家的な発想だと思うんです。常に夢を持って、絶えず実行しようと、色々な計画を立てている。その意識というのは、とても魅力的ですよね。
森ビルと私の関係は、随分昔に遡って、森稔社長の奥様(現森美術館理事長)が私の絵のコレクターだったことが始まりです。
森ビルがグランドハイアット東京のプロジェクトを立ち上げたときに、私の絵が採用されて、結婚式が行われる神殿前の大きなホワイエという空間の壁面に作品を描かせていただきました。森社長は私を全面的に信じて「好きにやっていい」と言って下さったんです。そのときに、本当に芸術に対して理解をしている方だと思いました。大袈裟かもしれませんが、多くのパトロンによって芸術家が支えられて名作が生まれたという歴史的背景がありますよね。だから私も、森社長の気持ちに恥じぬように「とにかく立派な作品を描かなくてはいけない」と思って、非常に夢中になって描くことができました。私にとっても生涯の一大傑作だと思っているので、何とかその責任を果たせたかなと思っています。

東京の魅力は外にいて初めて発見できる

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Waterfall グランド ハイアット 東京 2003年

東京の魅力は、『安全』ということはもちろん、手に届く範囲に良い場所がいくつかあるということにもあると思います。ちょっと時間があると歩くことにしているんですが、なかなかいいものですね。特に朝の明治神宮は、玉砂利を踏みながら歩いて一周すると、とても不思議なことに何とも厳かで新鮮な気持ちになるんです。
非常に残念なのは、私が東京に暮らしているときに、なかなか東京の良さに気付けなかったこと。ヨーロッパとの往復が多いなかで東京を客観的に見てみて初めて、「明治神宮があるじゃないか」「高層ビルの中に美術館があるじゃないか」「ゴルフの練習場も朝早くから遅くまでやっているじゃないか」と魅力に気付くことができたんです。
今は、年に200日以上はニューヨークで制作活動をしていて、日本にいられるのはせいぜい100日ほど。日本にいる時は、京都の大学で学長をしている関係でほとんど京都に滞在するため、東京にいる期間はほんのわずかしかないんです。だからこそ東京にいるときは、真剣に「何を食べたいだろうか」と考える。そうすると案外、しゃれたフレンチとか高級料理じゃなくて、気に入っている近所のラーメン店や立ち食いそば屋に行きたくなるんです。

プロフール

1958年、東京都出身。1982年東京芸術大学絵画科卒業。1987年同大学院博士課程を修了。以降、世界各国にて個展を開催し、日本画家として名を馳せる。1993年画集「フラット・ウォーター」(求龍堂)刊行。ニューヨーク・ギャラリー・ガイドの表紙に選出される。95年第46回ヴェネチア・ビエンナーレ絵画部門で東洋人初の優秀賞受賞。2002年第13回MOA美術館岡田茂吉賞絵画部門大賞受賞。2007年4月より京都造形芸術大学学長就任。近年の代表作に、大徳寺聚光院別院の全襖絵、ホテル・グランドハイアット東京の壁画などがある。『千住博画集-水の音』(小学館)、『絵を描く悦び』(光文社)などの画集・著書多数。