森ビル株式会社

芸術とはコミュニケーションであり、都市の必需品である(第3回)

2010年02月19日

今月のゲスト:日本画家 千住 博さん

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羽田空港第2ターミナルの天井画等のデザインや、トヨタ・レクサスのミラノサローネ出展の際のアートディレクションも手掛け、日本画家として世界に名を馳せる千住博さん。現在も現役で作品を作りながら、京都造形芸術大学で学長を務める千住さんが重要視しているのが「芸術的発想」だ。人間になくてはならないもので、都市を救うキーとなる「芸術的発想」とは、一体どのようなものなのか。千住さんにお話しを伺った。

第3回 寝る暇もないほど多くのプロジェクトを抱えています

今、世界的なプロジェクトはいくつかやっていますが、日本国内でも京都の大徳寺の聚光院というお寺の新しい襖絵を描いていますが、これが、本当に大変なプロジェクトで、いつ完成するかわからないぐらい、先の長い話なんです。
気が長いといえば、九州のJR博多駅のプロジェクトでは、全長1キロの壁画を制作していて、これは、本当に大変なんです。
この壁画を制作するにあたって、公募で葉っぱや花や昆虫の色紙大の絵を募集したところ、3万枚もの絵が集まってきたんです。この小さな絵をバーッと並べて、私が枝を描いて全部つないでいくと大きな木になる。つなぐということがコミュニケーションですから、私の芸術家としてのかかわり方としては、皆さんが、夢中になって描いた1つ1つの葉っぱを丁寧につないで、大きな壁画にしていくこと。
これは、私の作品というよりも、今この時代の人々そのものでもあると思っています。絵が3万枚集まったなんて、完成したら、ぜひ世界遺産に登録してもらいたいくらいですね。
九州という場所は、かつて日本が世界へ向けて開いていた玄関だったわけですが、これからのことを考えても、福岡、博多というのは、アジアの1つの大きなターミナルなわけです。多分とても美しい駅になると思いますよ。
その他には、これから国際線が導入される羽田空港の新しいターミナルの壁画も制作していて、実はアートディレクターとしてかかわっています。これも、ものすごく大きな絵を描かないといけなくて、もう本当に寝る暇もないというぐらいですよね。

時間を短縮することは十分にお金の価値がある

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個展風景 Sundaram Tagore Gallery,
New York 2007年

今日の収録に私は成田空港からヘリコプターで来たわけですが、私は今までヘリコプターには100回以上乗ったことがあります。なぜかというと、アラスカの氷河の取材や、砂漠や、道なきところを突き進んでいく滝の取材なんかは、ほとんど全部ヘリコプターを利用しているんですよ。しかもドアを外して、ほとんど安全ベルト一本で機体とつながりながら、身を乗り出すようにして写真を撮ったり、絵を描いたりということをずっとしてきたんですね。だから、ヘリコプターは、「怖くてうるさい乗り物」という潜在意識があったんですね。
今回、森ビルのヘリコプターを乗ってみて「こんなに快適な乗り物だったのか」と驚きました。だから非常に満足しています。普通ですと、成田から都心まで1時間以上かかってしまう場合が多いわけですが、このヘリコプターなら15分ですからね。確かに、そんなに安いわけではありませんが、しかし、今、例えば1時間半を15分に節約することによって、今日はこうやってインタビューを受けることもできるわけですし、それだけのお金の価値が十分あるというふうに判断してもいいと思うんですよ。
見晴らしもいいですしね、何よりも、時間が短縮できるというのは、私にとって本当にうれしいことですね。

プロフール

1958年、東京都出身。1982年東京芸術大学絵画科卒業。1987年同大学院博士課程を修了。以降、世界各国にて個展を開催し、日本画家として名を馳せる。1993年画集「フラット・ウォーター」(求龍堂)刊行。ニューヨーク・ギャラリー・ガイドの表紙に選出される。95年第46回ヴェネチア・ビエンナーレ絵画部門で東洋人初の優秀賞受賞。2002年第13回MOA美術館岡田茂吉賞絵画部門大賞受賞。2007年4月より京都造形芸術大学学長就任。近年の代表作に、大徳寺聚光院別院の全襖絵、ホテル・グランドハイアット東京の壁画などがある。『千住博画集-水の音』(小学館)、『絵を描く悦び』(光文社)などの画集・著書多数。