森ビル株式会社

スクリーンと向き合うなかで、見つめた都市の姿(第4回)

2009年11月20日

今月のゲスト:写真家・映画監督 若木信吾さん

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写真家として雑誌や広告などで活躍しながら、自身で出版社を興しジャーナル誌を発行するなど創作の場をますます広げている若木信吾さん。その若木さんが監 督した映画『トーテム Song for home』が公開された。台湾の原住民が住む台東という地域の青年が、台北でロックバンドとして活躍する姿を捉えたドキュメンタリー作品。自身の祖父を撮 り続けた写真作品シリーズの映画化として発表した『星影のワルツ』に続く監督作品第二作目となる。都市と故郷の間で揺れる青年の心を追いかけた若木さん は、東京で暮らしながら今何を思っているのだろうか。

第4回 森ビルの桜を撮り続けて気づくこと

森ビルの桜を撮影するようになって、もう3年目になります。もともと桜は撮らなかったから、最初はよくわからないものだったんですけれど、だんだん違いがわかってきますね。人間と一緒で、ものすごく華やかに見えるんだけれど、近づいていくと違っていたり。「この年は花びらの色が違うな」とか。そのおかげで、森ビル周りの建物に詳しくなったり、親しみを感じています。お店は入れ替わりがあるから変わっちゃうんだけれど、桜だけは残っているから、「今年は結構咲いているな」とか「花びら散るの早いな」とか、そういうのがわかるのがすごくいいですね。
アークヒルズの上の庭のところの、1本だけきれいに立っているやつだとか、いいんですよね。桜自体を見るのもすごく楽しいんですけれど、必ず宴会をやっているところがあったり、桜の写真を撮りに来ている人たちも見たりとかして。3年も見ていると「ああ、俺はここに住んでるわけじゃないけれど、この人たちよりも知っているかもな」という感じもあります。もっと知っている方がよく写るようになるかもなと、今は思うようになりました。

気に入っている場所と、そこで過ごす贅沢な時間

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若木さんが撮影した六本木ヒルズの桜

僕はずっと渋谷から西側の、世田谷の方向にしか住んだことがないんです。だからそのあたりは慣れ親しんだ感じはありますね。実家が静岡県の浜松なので、意識的にそっち側に近い方に行っちゃっているんじゃないかと思うんですよね。
あとは、今は恵比寿に事務所があって、内装も山小屋みたいな感じで結構いい光が入るんですよ。そこで昼間、新聞を読んでいる時間が楽しいんですよね。ちょうどニューヨークやサンフランシスコにいたころにも、暇だからそういう時間があったんです。日曜日にキッチンで、日曜版の分厚いアメリカの新聞のアート欄を読んでみたり、「一週間の出来事」みたいなのを読んでいると日が暮れちゃうみたいなことがあって。恵比寿の事務所で新聞を読んでいると、その時の感じをちょっとだけ楽しめるんですよ。それが僕にとっての贅沢な時間です。

プロフール

1971年静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真科卒業後、「The New York Times Magazine」「Newsweek」「Switch」「Elle Japon」「HF」「relax」など雑誌・広告・音楽媒体をはじめ、ライフワークとして自身の家族や友人を撮影した作品を発表している。中でも自身の祖父を被写体としたシリーズは『星影のワルツ』として映画化し、初めて映画監督を務めるなど、幅広い分野で活躍し注目される。また自身の出版社ヤングトゥリー・プレスを興し、個人的体験を一般公募で集めたジャーナル誌「youngtreepress」を発行し、個人的視点の集まりをドキュメンタリー・スタイルで表現することを追求している。