森ビル株式会社

スクリーンと向き合うなかで、見つめた都市の姿(第1回)

2009年11月01日

今月のゲスト:写真家・映画監督 若木信吾さん

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写真家として雑誌や広告などで活躍しながら、自身で出版社を興しジャーナル誌を発行するなど創作の場をますます広げている若木信吾さん。その若木さんが監督した映画『トーテム Song for home』が公開された。台湾の原住民が住む台東という地域の青年が、台北でロックバンドとして活躍する姿を捉えたドキュメンタリー作品。自身の祖父を撮り続けた写真作品シリーズの映画化として発表した『星影のワルツ』に続く監督作品第二作目となる。都市と故郷の間で揺れる青年の心を追いかけた若木さんは、東京で暮らしながら今何を思っているのだろうか。

第1回 監督作品第二作目『トーテム Song for home』について

今回、台湾原住民出身のミュージシャンの若者を追いかけた『トーテム Song for home』というドキュメンタリー映画を撮りました。台湾の原住民が住んでいる台東というエリア出身の、僕よりちょっと若い30歳手前の若者たちが組んだバンドが、何年か前に台北でデビューしてヒットしたんですね。その彼らを追って撮ったドキュメンタリーの映画です。
原住民の人々の暮らしには、お祭りや衣装とかがまだちゃんと残っていて、バンドの彼らもそのお祭りに帰るんですよ。今ロックバンドをやっている彼らのルーツがそこにあるということ、どうやってこういう音楽ができたのかということを、それぞれの故郷を訪ねながら、追いかけて撮ったものという感じです。

故郷と都市の間で揺れる想いに共感した

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監督作品第二作目『トーテム Song for home』

僕がもともと住んでいたのは実家のある静岡県の浜松で、そこから海外に行って、その後に東京に住んだんです。東京も住みやすいところですけれど、どうしてもやっぱり実家のことを考えてしまいますね。かといって実家に帰っても仕事がないから、かえって居心地悪いみたいなこともある。そうやって実際に体も行ったり来たりしているし、想いも行ったり来たりがあるという、距離が近いような遠いようなといった感覚をずっと不思議に思っていました。
映画に出ているスミン(主人公の青年)たちも、音楽がやりたくて台北という一番の都会に出てきているけど、出身の台東は台北まで車で7、8時間かかるようなところで結構遠いんですよ。そこであまりにもカルチャーの違いがあったりして、居心地が悪いというか「やっぱり地元がいいな」って言っていたりするんですよね。歌の内容もそういうものが多い。
そこに僕もちょっと共感できたというか、僕の視点でそういうところを汲み取りながら、追いかけられたらいいなと思って、この映画を撮りました。

プロフール

1971年静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真科卒業後、「The New York Times Magazine」「Newsweek」「Switch」「Elle Japon」「HF」「relax」など雑誌・広告・音楽媒体をはじめ、ライフワークとして自身の家族や友人を撮影した作品を発表している。中でも自身の祖父を被写体としたシリーズは『星影のワルツ』として映画化し、初めて映画監督を務めるなど、幅広い分野で活躍し注目される。また自身の出版社ヤングトゥリー・プレスを興し、個人的体験を一般公募で集めたジャーナル誌「youngtreepress」を発行し、個人的視点の集まりをドキュメンタリー・スタイルで表現することを追求している。