森ビル株式会社

走ることで新しい自分と、東京と出会う(第5回)

2009年08月28日

今月のゲスト: 有森裕子さん

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元プロマラソンランナーの有森裕子さん。現役を引退してからは、NPO法人を立ち上げ、カンボジアの子どもたちとスポーツを通して交流したり、アスリート のマネジメント会社を立ち上げるなど、積極的にスポーツを通した活動を続けている。最近『有森裕子のマラソンブック フルマラソンで4時間を切る!』を発売し、改めてマラソンに向き合ったという有森さんが見つめてきた、スポーツの力や、変化する東京の人々とは。

第5回 マラソンを楽しく走るために

走ることの心構えとしては、無理をしないということですね。皆さん、競技者になろうとかトップアスリートになろうというところでなければ、先には健康ということを目標に置いていらっしゃると思います。でもやはり、走ろうと思っても続かない人って、最初から「走ろう」とされるんですよね。
でも本当は、運動をする前に持っていなければならない体力というのをつけるためには、「走る」前に、ちゃんと歩けなければいけない。まず基礎体力をつくるところから始めないといけないんですよね。
例えば日常の生活でも、階段を使うように心がけたり、少し重いナップサックを背負って駅1つ分歩くとか。最初から走ろうとするとうまく走れなかったり、すごくきつくて「何か楽しくないな」で終わっちゃうのですけれど、きつくなったら歩いて、また呼吸が整ったらちょっと走ってという、その繰り返しでもいいんです。そこからだんだん中身を変えていく。そうすると最終的に、「ああ、全部走れたね」というふうになる。そういうふうに考えてもらうと、もっと楽かなと思いますけれどね。

自分の体との対話を楽しむ

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トレーニング風景

マラソンをしていて楽しいのは、自分の体のいい変化に気づけるところです。自分のスタイルで自分の体との対話ができるというのは、とても楽しいですよ。あとは、自然との一体感がいろいろな場で持てるということ。
シューズ1つあれば、どこへでも行けますから。それぞれの場所での発見が面白いですね、周りの環境に対してもそうだし、人との出会いもある。しかも世界共通でどこに行ってもできるものですから。あともちろん、ゴールしたときの達成感も。楽しいところというのはたくさんありますよ。
逆に苦しいのは、私は競技者でしたから、タイムと順位が必ずつくというところや、練習は基本的に苦しいですね。体がどういう状態であれ、やらなければいけないこともある。日常生活の中でも、食事や寝る時間にしても、例え休憩している時間にしても、すべてにおいて、神経を張り巡らせるなかで練習もこなさなければならない。その毎日を繰り返すことというのは、本番までの間やっぱり苦しいですね。でもその先に結果が出てくるから、よりマラソンの楽しさが倍増するのですけれど。

プロフール

1966年岡山県生まれ。日本体育大学を卒業後、(株)リクルートに入社。女子マラソンで、バルセロナオリンピックでは銀メダル、アトランタオリンピックでは銅メダルを獲得。『東京マラソン2007』で、プロマラソンランナーを引退する。1998年NPO「ハート・オブ・ゴールド」設立、代表就任。 2002年アスリートのマネジメント会社「ライツ」設立、取締役就任。現在、国際陸連(IAAF)女性委員、国連人口基金親善大使、他。米国在住。