森ビル株式会社

展覧会と小説を作ることで見えた都市の姿(第4回)

2009年06月26日

今月のゲスト:作家 原田マハさん

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第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2009年に映画化された『カフーを待ちわびて』。著者である原田マハさんは、長くアートの世界に携わり、森美術 館の設立にも関わっていた。好奇心が強いと自身を分析し、小説でも、美術の世界でも「まだまだ伝えたいことがたくさんある」と語る彼女は今、世界を、そし てその中で東京を、どのように見つめているのだろうか。

第4回 東京にポテンシャルを感じるその理由

東京は世界的に見ても本当に魅力的な街だと思いますね。かつて、私が森美術館にかかわらせていただいたときには、「ここがファイナル・ディスティネーションになる」というのが標語のように言われていた時代がありまして。「世界中から人々が、六本木ヒルズ、森美術館、東京を目指してやってくるような、そういう場所にしたい」というのが社員全員の思いだったと思いますし、また東京という街自体に、そういうポテンシャルがあるというふうに信じていましたね。

実際、今、森美術館を中心として、六本木というのは本当に文化的なエリアになり、たくさん美術館もできました。人の流れも大きく変わったと思うんです。だから、世界のアート関係者や、世界中から集まってくる人たちにとって、東京、六本木というのが、本当に世界的に見ても最高水準の文化エリアだということも間違いないと思います。
ただ、それに甘んじているのではなくて、この先どうするか。文化エリアとして確固たるポジションを築いたあとに、それに甘えるのではなくて、どうやってそれをブラッシュアップして、常に世界のファイナル・ディスティネーションになるために、何を発信していったらいいのか。街というハードウェアができたので、これからはソフトとかコンテンツの問題だと思うんですね。だから、常に新しいこと、魅力的なこと、刺激的なことを発信していく場所であってほしいと思いますし、そのポテンシャルがある。

私、「ポテンシャル」という言葉が大好きなんですよ。それは、私が去年書いた携帯小説の『ランウェイビート』という小説の中でも、16歳の男の子に「ポテンシャル」「ポテンシャル」って何度も何度も言わせたんですけれど、この言葉が一番似合う街なんじゃないかなというふうに思いますね、東京っていうのは。

プロフール

作家/東京都出身。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒。総合商社、森美術館準備室を経て、2002年独立。2003年より国内外の展覧会、シンポジウム、アートコーディネートを手がける。2003年より、カルチャーライターとして執筆活動開始。
2006年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞受賞。
著書に、『一分間だけ』『#9』『花々』(以上宝島社)、『普通じゃない。』『さいはての彼女』(以上角川書店)、『ごめん』(講談社)、『おいしい水』(岩波書店)、『キネマの神様』(文藝春秋)。