HILLS CAST
“東京をおもしろくするアイデア”を持ったゲストをお迎えしてお届けする「HILLS CAST」は、J-WAVEのラジオ番組「森ビル presents 東京コンシェルジュ」内で放送していた森ビルのラジオCMです。
※掲載内容は、取材・放送時点のものです。
東京から離れられないその理由(第1回)
2009年03月01日
今月のゲスト:作家 阿川佐和子さん

「文句があっても、魅力もあるからつい住んじゃう」
自身が生まれ育った東京についてそう話すのは、作家の阿川佐和子さん。小説やエッセイなど著作は数多く、テレビでも活躍している。広島や横浜、ワシントンDCでの生活の経験もある彼女が、一番長く住み続ける東京の魅力とは一体どこにあるのだろうか。東京の良いところ、そして悪いところまで、独自の視点で明るく語った。阿川さんが考える、理想の東京とは。
第1回 常に、新しい場所から学ぶ
私は日本人ほど、毎日違った味を求める国民は世界にいないだろうと思っているんです。私はあまり情報を多く求めないというか、頭悪いから情報を整理できないので、「そんなにたくさん情報、要らない」って思うのですが、東京の良いところは、やっぱりおいしい店がたくさんあることかな。例えば、「今晩、何食べる?」と言ったときに「昨日中華だったから、今日お寿司にする」、で、「中華、お寿司と続いたから、明日はイタリアン」なんて、そんな国民あんまりいないでしょう。
それから1つの食卓に、例えばステーキと、御飯とお味噌汁と、ちょっとニース風サラダと、それから中華の炒め物と塩ジャケが乗っている食卓って、あまりないと思うんですね。そんなこと、考えられないですから。
でもそれだけ楽しめる。レベルの高低はあっても、いろいろな味に興味を持つ人が多いのが東京だと思うのです。それは楽しいですね。
風景の記憶を留めるのが難しい街でもある

悪いところを言うとすると、風景の記憶を留めるのが難しい街ですね。どんどん建て替えが起こる。特に私が生まれたのが、高度成長時代のはしりのような時代だったから、それからもう、ハッと気がつくと、「えっ、この角、何屋さんだっけ?」「どんな建物建っていたっけ?」と思う間に工事中になり、新しい建物が建ち、そのビルが「なんだかここ、新しいんだよね」と思っているうちに、隣が変わり、あっちが変わり、この店がなくなりという。
そのスクラップアンドビルドを、とにかく休むことなく繰り返して、私はそういう景色を見ながら大人になったような気がする。だから「子供の頃と同じ景色が続いている」という界隈は少ないような気がします。それは寂しいことですね。
やっぱり経済発展のためには、どんどん新陳代謝をしなければいけないことは、しょうがないと思うのですけれど。でも、古びていく面白さを味わうことも大事だと思うんです。その余裕がないのが東京ですよね、それはちょっと残念。
「文句ばっかり言っているんだったら、東京から離れろよ」って、自分自身に問いかけるのですが、「やっぱり、そうは言っても東京の魅力はあるもんね」って思うから、つい住んでいます。住む場所としては、「東京の割には緑が多くて静か」というところが好きですね。意外にね、東京って緑あるんですよ。探せばというのも変だけれど、「こんな中心の路地入ったところに、えっ、こんな大きな木があったの?」なんてところがあると、うれしいんです。
プロフール
作家・タレント/1981年「朝のホットライン」でリポーターを務め、1983年より報道番組「情報デスクToday」のアシスタント。1989年から「筑紫哲也NEWS23」のキャスターを務めた。1992年に渡米し、帰国後「報道特集」のキャスターとなる。著作は数多く、エッセイ「ああ言えばこう食う」で1999年講談社エッセイ賞を受賞。小説「ウメ子」では坪田譲治文学賞を受賞。現在週刊文春にて対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」を連載中。