森ビル株式会社

東京を離れた今だから見える、都市の姿(第4回)

2008年12月26日

今月のゲスト: 細川護熙さん

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新聞記者、県知事、内閣総理大臣を歴任し、これまで内外から東京、そして日本を見つめてきた細川護熙さん。政界を引退後は神奈川県湯河原に住まいを移し、陶芸をはじめ、書道や絵画、庭いじりなどしながら静かな日々を過ごす。東京を離れた今、改めて彼の目に映る東京の姿とはどんなものなのか。
ゆっくりと静かに、東京を語る。

第4回 桜の下の花守人になりたい

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細川護熙作『焼〆壺』

湯河原の我が家の庭にはとてもいい桜の木があります。私は、その桜の下の花守人になるのが夢でした。ですから、雑用にできるだけ振り回されないで、今まで以上に遮断して、湯河原の静かな空気に包まれて、温泉につかり、鳥の声や、虫の声を聞いて、月を愛でて過ごしたいなというのが一番の願望ですね。
しかし、私の気持ちとは裏腹にずいぶん雑用が増えてしまった。その原因には、晴耕雨読の暮らしの一貫として行っていたはずの焼き物や書などが脚光を浴びるようになってしまったことがあります。更に現在は連載も抱えているので、原稿も締め切りにあわせて書かなければならない。ですから、もうこれ以上発信は、たくさんだと思っています。今はできるだけ静かにしていたいというのが一番の願望です。
例えば今連載しているのも自分自身の楽しみ、栄養として書いています。学生時代から陶淵明や白楽天、蘇軾などという人たちに関心があったので、「そういう企画ならばお引き受けしましょう」ということでお引き受けしました。焼き物も書もすべてそうなのですけれども、自分で楽しみながら取り組めることだけは引き受けています。
私は、朝は5時半くらいに起き、少し庭に出て、庭木をいじったり、畑にちょっと水をやったり、少し体を動かして汗をかくことをして、昼間は人が訪ねてきたり、まあいろいろなことがありますよね。1ヶ月のうち何日かは夜は一切門から外に出ないと決めている期間もあります。
ですから、人から見ると、私の暮らしは随分ストイックにみえるかもしれません。人が麻雀に行ったり、酒飲みに行ったり、つまらん時間を過ごしているときに、私は『徒然草』とか『老子』とか『古今集』とか、そういう昔のものを読んで、ひとり楽しんでいるわけですからね。まあ、「ざまあみろ」という感じかな。

プロフール

1938年、東京都生まれ。朝日新聞記者を経て、衆参議員、熊本県知事、日本新党代表、内閣総理大臣を歴任。政界引退後、神奈川県湯河原の「不東庵」にて作陶、書、水墨、茶杓作り、漆芸などを手がける。財団法人永青文庫理事長。著書に『不東庵日常』(小学館)、作品集『晴耕雨読』(新潮社)、『ことばを旅する』(文藝春秋)など。