森ビル株式会社

上海の展望台を、丸ごとアート作品に

2008年12月16日

今月のゲスト:メディアアーティスト 岩井俊雄さん

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人々が参加できるインタラクティブな作品を、国内外の多くの美術展にて発表してきた岩井俊雄さん。8月に完成した世界一の高さを誇る「上海環球金融中心」においては、展望台を丸ごとアート作品として披露。世界中が注目する一大プロジェクトに込めた想いを語る。また、メディアアーティストという立場から見た現在の東京とは。

ラフォーレミュージアム原宿でのマイルストーンになった展覧会

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上海環球金融中心の環境演出
© 2008 Toshio Iwai / SWFC Observatory

メディアアーティストの岩井俊雄です。
僕は、大学の頃からいろいろな作品をつくり始めていたのですけれど、社会に出てきた時に、すごく自分の中でマイルストーンになった大きな展覧会があります。それが実は原宿のラフォーレミュージアムでやった展覧会なんです。1990年なので、もうかなり、18年とか昔なのですけれども、それが僕の20代中盤というか後半の、もう本当に大きな展覧会で、実はそれをきっかけに、ラフォーレミュージアムや森ビルの方とおつき合いするようになり、今回の仕事につながってきたというのがあるんですね。
今回、上海環球金融中心でやらせていただいた仕事も全体の環境演出ということもあるし、1個1個の作品は、さまざまな映像もあるし、音もあるし、いろいろな仕掛けもあって、本当に1つのカテゴリーではなかなか言い切れないことなのですが、それを全部自分でやっているのですね。それを総合して、今は「メディアアート」という言葉を使っています。

2008年は3つの大きな仕事が完成した年

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TENORI-ON
© 2007 Toshio Iwai / YAMAHA

2008年は僕にとって、何かすごく特別な年で、3つの全く違うベクトルを持った仕事がそれぞれに完成した年なんですね。
1つは、もう7年近くヤマハと一緒にやってきた、『TENORI-ON』という新しい楽器がようやく完成して、全世界で発売された年なんです。
もう1つは、絵本を1冊書いたんですね、『100かいだてのいえ』というので、実は上海環球金融中心も101階建てで、100階に展望台があって、すごい偶然でびっくりしたのですけれども、その絵本が発売されて、それでなかなか予想以上に好評で、ちょっと絵本作家の第一歩を踏み出したようなところもあるんです。
それからもう1つは、この上海環球金融中心の仕事が、2年越しにようやく完成して、中国という新しい地で自分の仕事、自分の作品が試されるという、そういう初めての年なんですね。
ですから、僕はメディアアーティストという仕事を20年以上やってきて、「ここまで広がりを持つのか」という、自分でも驚いているところなので、これをもうちょっとよく自分でも見極めて温めていきたいなと考えているところです。

上海環球金融中心展望台の環境演出について

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上海環球金融中心の環境演出(小天天)
© 2008 Toshio Iwai / SWFC Observatory

森ビルの方からお誘いを受けて、この上海環球金融中心の展望台に至るまでの道のりを「人々があまり退屈しないように演出をしてほしい」という依頼を受けたんです。
やっぱり、『空』というものがまずテーマにあったので、「空を飛ぶ動物たち」を考えようと思いました。このビルの新しさに沿った何か近未来的な、非常に洗練された造形で尚かつ、温かみを感じたり、かわいらしさを感じたるするようなキャラクターをつくりました。そして生まれたのが「シャオテンテン」というキャラクターです。日本語では小さい天、「小天天」と書いて中国語で「シャオテンテン」と読むのですが、それはちょっと未来的な鳥をイメージしたものなのですけれど、それが最初に生まれて、「これはいける」ということになって徐々に仲間が増えていきました。
それが僕の今回つくった作品だとか環境演出の中にも入ってきていますし、それから、展望台の中にショップがあるのですが、そのショップの中で販売しているグッズにもいっぱい登場してきているという感じですね。

プロフール

1962年愛知県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形専攻修了。大学在学中から、実験アニメーション制作を始め、その後コンピュータを使った作品へと移行し、1985年、現代日本美術展大賞を最年少で受賞。以後ドイツ、オランダ、フィンランドなどでの個展をはじめ、数多くの美術展に人々が参加できるインタラクティブな作品を発表、日本を代表するメディアアーティストとなる。1997年、坂本龍一とのパフォーマンスでアルスエレクトロニカ・フェスティバルのグランプリを受賞。他にもテレビ番組『ウゴウゴルーガ』、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示『トトロぴょんぴょん』『上昇海流』や、ニンテンドーDSのアートソフト『エレクトロプランクトン』、ヤマハと共同開発した音と光を奏でる楽器『TENORI-ON』を手がけるなど、アートを超えた広い分野で活動をしている。