HILLS CAST
“東京をおもしろくするアイデア”を持ったゲストをお迎えしてお届けする「HILLS CAST」は、J-WAVEのラジオ番組「森ビル presents 東京コンシェルジュ」内で放送していた森ビルのラジオCMです。
※掲載内容は、取材・放送時点のものです。
東京を離れた今だから見える、都市の姿(第2回)
2008年12月12日
今月のゲスト: 細川護熙さん

新聞記者、県知事、内閣総理大臣を歴任し、これまで内外から東京、そして日本を見つめてきた細川護熙さん。政界を引退後は神奈川県湯河原に住まいを移し、陶芸をはじめ、書道や絵画、庭いじりなどしながら静かな日々を過ごす。東京を離れた今、改めて彼の目に映る東京の姿とはどんなものなのか。
ゆっくりと静かに、東京を語る。
第2回 本当は社交嫌いな私

東京の魅力は、いろいろなものがごちゃごちゃあるというところですね。焼き鳥屋もあるし、パチンコ屋もあるし、映画館もあるし、多少上等に言えば、知的興奮の場というものが、でき上がっているということではないでしょうか。東京に人口が集まるのは、知的欲求を刺激されるという面があるのかもしれませんね。
私は湯河原に住んでいて、本を読んで庭仕事をしてという、そういう生活の方が私自身にとっては知的な刺激が十分あるのですが、たまに友人たちと東京で食事をしたり、一杯飲みに行ったりするというのは、それはそれなりに、またいい刺激になりますね。
不思議に思われるかもしれませんが、私は基本的に、社交嫌いなんですよ。ですから、人の大勢いるところには本当はあまり出たくないんです。結婚式もお葬式も行かないと決めていて、もうこの10年間は、全く出席していません。新しい総理官邸にも、私は行ったことがないですし、よくパーティでいろいろな外国の元首の方などが来られると呼ばれたりしますが、そういうものも全部お断りしているんです。
小学校のころから、人前で何かするというのは、すごく嫌いなことで、「それでよく政治家が務まったな」と言われますが(笑)、学芸会とか運動会というと、私は必ずお腹が痛くなって休んでいましたから、仮病で。それくらい、本当に表舞台に出て行くということは好きじゃないんですね。ですから、何の抵抗もなく今のような田舎暮らしができるのだと思います。むしろ、自分一人でこもっているということの方が好きだから、できるんでしょうね、きっと。
私は読書が好きですが、もっぱら古典を読んでいます。それが一番勉強になるというか、まあ勉強するという意識はありませんが、自分自身で欲しているものだという気がします。ですから、流行っている映画や週刊誌や、ベストセラーは私の目や耳には入ってきませんし、アカデミー賞で、何が賞をとったかということもあまり関心がありません。本当にいいものは、それからしばらくたってから、友人に「面白いから観た方がいいよ」というようなことを言われて、DVDで観たりします。
私はテレビも新聞も見ないものだから、リーマン・ブラザーズがどうなったかって、それは知っていますよ、そのぐらいのことはわかりますけれどね。だけれど、まあ、それは駅で新聞をときどき買うぐらいの話ですから。
でも世の中のことはわかりますよ、それでも(笑)。
「台風が来そうだな」というときに、ときどきテレビをつけたりもしますが、その程度のことです。これだけ情報が溢れている時代だと、そういうものを見ない方が物事の本質がよくわかるような気がするんですね。ですから、極力雑音を耳にしない、目にしない、それが一番核心をずばっと見るにはいいことだと思っています。
プロフール
1938年、東京都生まれ。朝日新聞記者を経て、衆参議員、熊本県知事、日本新党代表、内閣総理大臣を歴任。政界引退後、神奈川県湯河原の「不東庵」にて作陶、書、水墨、茶杓作り、漆芸などを手がける。財団法人永青文庫理事長。著書に『不東庵日常』(小学館)、作品集『晴耕雨読』(新潮社)、『ことばを旅する』(文藝春秋)など。