森ビル株式会社

東京を離れた今だから見える、都市の姿(第1回)

2008年12月05日

今月のゲスト: 細川護熙さん

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新聞記者、県知事、内閣総理大臣を歴任し、これまで内外から東京、そして日本を見つめてきた細川護熙さん。政界を引退後は神奈川県湯河原に住まいを移し、陶芸をはじめ、書道や絵画、庭いじりなどしながら静かな日々を過ごす。東京を離れた今、改めて彼の目に映る東京の姿とはどんなものなのか。
ゆっくりと静かに、東京を語る。

第1回 晴耕雨読の暮らしにあこがれて

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HILLS CAST収録風景

私は、陶淵明や白楽天、李白などの本を若い頃から読んでいて、「晴耕雨読の暮らしをする」というのがそのころからのあこがれでした。そして、実際に私は、60歳で政治の世界を退いた後、すぐに湯河原の家で閑居暮らしをはじめました。その矢先、たまたま友人の焼き物の展覧会を見に行って、「楽しそうだから、やってみようかな」と思ったのがきっかけで焼き物を始めるするようになりました。ちょうど焼き物を始めて10年になります。焼き物の魅力は、土とか火とか太古以来の原初的なものと向き合っていると、自分自身が素直になれることです。熱中していると「あのやろう」とか「このやろう」とか、そういった感情が湧いてこないんですね。俗世間とは隔離された空間に漂うような。ですから、私の性に合っていると思います。あくまでも、晴耕雨読の暮らしの中の1つの楽しみとして、焼き物を作っているわけです。その他にも絵も描くし、書も書くし、漆の作品もつくります。畑や庭もよくいじっています。

現在は、基本的に東京から程よく離れた田舎に住んでいて、週に1、2度東京に出てというスタイルですね。月のうちの3日、あるいは1週間と決めて、「その間は家の門から外に出ない」という期間をつくれる位だといいのですが。実際にはなかなかそういうわけにもいきませんが。田舎の暮らしは「内省の時を持つ」というほど大げさではありませんが、静かなひと時を持つという意味では、とても充実した、落ち着いた時間だと思います。桜のいい季節には桜を見て、本を読んで、好きなときに起きて、好きなときに寝てということですから。家の敷地の中にいるときは、本当に自然だけが相手なので、風の音、鳥の声、昔の田舎に暮らしている感じです。夏になると鈴虫や、蝉時雨で、本当にこれがまた、こたえられないぐらい、いいものなのです。そういう中で暮らしていると、都会の喧騒の中には長くいられなくなりますね。とはいえ、東京の下町、たとえば浅草や神田のお祭りは、人々の活気を含めてとても惹かれます。今年も、ほおずき市や朝顔市に行きました。特に夏の花火は、本当にいいなと思います。大曲や長岡などでみる花火もいいけれども、隅田川の花火は、格別ですね。
その他の東京の魅力はやはり食べ物かな。東京にときどき出て来るときには、おいしいお寿司屋さんやイタリア料理へ行きたいなと思います。音楽会に行ったり、親しい人たちとそういう時間を過ごせるのはとても楽しいことです。

プロフール

1938年、東京都生まれ。朝日新聞記者を経て、衆参議員、熊本県知事、日本新党代表、内閣総理大臣を歴任。政界引退後、神奈川県湯河原の「不東庵」にて作陶、書、水墨、茶杓作り、漆芸などを手がける。財団法人永青文庫理事長。著書に『不東庵日常』(小学館)、作品集『晴耕雨読』(新潮社)、『ことばを旅する』(文藝春秋)など。