HILLS CAST
“東京をおもしろくするアイデア”を持ったゲストをお迎えしてお届けする「HILLS CAST」は、J-WAVEのラジオ番組「森ビル presents 東京コンシェルジュ」内で放送していた森ビルのラジオCMです。
※掲載内容は、取材・放送時点のものです。
「島耕作」と、都市を見つめる(第2回)
2008年11月07日
今月のゲスト:漫画家 弘兼憲史さん

会社員から漫画化への転身。代表作「島耕作」シリーズには、自身のサラリーマン生活をもとに、主人公がキャリアアップしていく様子がリアルに描かれている。島耕作は、サラリーマンたちが憧れる有望なビジネスマンであることは言うまでもない。
これまで作品の中で多くの都市を描き続けてきた弘兼憲史さんが、東京を見つめ、感じることを語りだす。
第2回 弘兼憲史が見る中国
中国の1年というのはドッグイヤーといわれているように、1年が7年分ぐらい早く進んでいます。中国には何度も行っていますが、ビルがどんどん建っていて、1年行かないと景色が違って見えるぐらいです。
この夏、北京オリンピックにも行きましたが、3年ぐらい前に行った時とは、大きく様変わりしていましたね。とにかく、街が綺麗になった。それから市民の民度というのか、平たく言えば、お行儀がものすごく良くなったと感じました。恐らくそれは「外国の方をたくさん迎えるので、こんな事をしてはいかん」とか「これは絶対やってはいかん」と随分お知らせして、守ってもらうという形にしたのでしょう。
一番顕著な例は、以前は道端につばを吐く人が多かったのが、今回はほとんどなかったことですね。オリンピック公園の中を歩いていたときに、地方から来た老夫婦がいて、旦那さんの方が「カーッ」とつばを吐こうとした瞬間に奥さんが「それはだめ」というふうに制止したんですね。「ああ、そういうふうに、中国も変わっているんだ」という気がしました。
それから町中にゴミがなかったことです。これは、もしかしたらオリンピック期間中だけかもしれませんが、いわゆるディズニーランドのように清掃する人がたくさんいて、片っ端からタバコの吸殻なりゴミ、チリを拾って、綺麗にしていたのです。特に一番びっくりしたのは地下鉄です。地下鉄の廊下とか壁もピッカピカ。タイルの間に詰まっているゴミを爪楊枝のようなもので、目地を掘って掃除して、それから上をキュッキュと乾いた布で拭いているというような徹底的な掃除の仕方だったので、本当に鏡のように地下鉄の床が光っていて、これにはびっくりしました。
中国のすさまじい成長―その時日本はどうするべきか―

作品の中でも、中国という大きな経済的脅威であり、また友好な関係を保つべき隣国に、島耕作自身がどんどん中に入っていき、途中で大きなつまずきがあったり、壁を乗り越えたりしています。実際、中国と日本とはどのような関係であるべきかということについては、いろいろと考える部分がありますね。
いまはまだ日本の方がGDPは上ですが、中国は間違いなく日本を抜き、そして2030年くらいには、アメリカにキャッチアップするというデータもある。つまり、それだけ中国が今伸びつつあるというのは、これは紛れもない事実です。
日本は今、アメリカと中国の両方と、貿易面では盛んに取引を行っているのですが、どちらかに軸足を置くというよりも、両方に均等に軸足を置いて見ていかなければいけないという事だと思います。日米関係というのは、勿論外交の面でも、防衛問題もそうですが、現在の日本では、“位置”が非常に大切です。しかし、経済的なパートナーとして中国は、まず見逃せない。アメリカも多分、日本と同じ位置でとらえていると思うのですが、僕の考えでは、米中が接近するという事はあまりないと思います。日米関係が基軸になって、アメリカも日本を基軸にすると思うのですが、経済関係の面では、「米・日・中」の三角形というのは完全に「正三角形」、トライアングルになると思います。もう好き嫌いに関わらず、つき合っていかなければいけない国。それが中国だということですね。仕事を度外視して、普通の一個人として考えると、中国はなかなか興味があって面白いんですよ。好きな土地です。
ただ、本当にまだ整っていない部分も多いし、いろいろな意味でのレベルも先進国に比べてそんなに上がっていなくて、解決すべき点もたくさんある。日本人に対する感情にも問題があることも、この間のオリンピックを見ても非常によくわかりました。そういう問題点はあるのですが、それでもやはり、自分にとって中国というのは面白い、興味がたくさんある街ですね。
プロフール
1947年9月9日生まれ。山口県出身。早稲田大学法学部卒業。松下電器産業販売助成部に勤務。同社を退職後、1974年に漫画家としてデビュー。 1985年に『人間交差点』で第30回小学館漫画賞一般向け部門、1991年には『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞一般部門を受賞。2000年には『黄昏流星群』で第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を、同作では2003年に第32回日本漫画協会賞大賞など数々の賞を受賞した。2007年にはその功績が認められ、紫綬褒章を受章する。その他の代表作に『加治隆介の議』『ハロー張りネズミ』など。1983年から始まった代表作「島耕作」シリーズは、2008年に社長就任を迎え、さらなる飛躍のときを迎えている。