森ビル株式会社

「島耕作」と、都市を見つめる(第1回)

2008年11月01日

今月のゲスト:漫画家 弘兼憲史さん

0811_img.jpg

会社員から漫画化への転身。代表作「島耕作」シリーズには、自身のサラリーマン生活をもとに、主人公がキャリアアップしていく様子がリアルに描かれている。島耕作は、サラリーマンたちが憧れる有望なビジネスマンであることは言うまでもない。
これまで作品の中で多くの都市を描き続けてきた弘兼憲史さんが、東京を見つめ、感じることを語りだす。

第1回 島耕作が社長に!漫画の世界と現実世界がコラボ

0811_1_1.jpg
主人公「島耕作」が社長就任会見

漫画家の引兼憲史です。
「島耕作が社長になった」というニュースが夕方のテレビや新聞のニュースに真面目に出ていて、ちょっと驚きました。でもそういうジョークがわかるような日本になったというのは、なかなかいいものだなと思います。漫画の世界と現実世界をコラボさせたようなイベントに、多くのマスコミの方が参加してくださって、本当に嬉しかったし、我々も楽しませていただきました。
イギリスの雑誌『エコノミスト』誌にも「日本で最も有名で有望な社長」として「島耕作」を取り上げられていたとことがありました。決していい内容の記事ばかりではなく、007(ダブルオーセブン)みたいだとか、少し皮肉な内容もありましたが、そういった形でも海外の経済誌に取り上げてもらえるということは、うれしいことですね。

長年支持されてきた人気の秘密は…?

「島耕作」がここまで支持されたのは「継続は力なり」という言葉があるように、ずっと長く続けてきたことが、ひとつの原因だと思います。漫画の内容には、単なるエンターテイメントだけではなく、かなりの情報を盛り込んでいます。例えば、「島耕作」を読むと、インドや中国の状態がよくわかるというように、情報漫画という一面も持っているのです。そこが、今までにない形の漫画という事で支持されたのかもしれません。
主人公がサラリーマンということで、読者には、やはりサラリーマンの方が多いですね。主人公の島耕作はもう60歳なんですが、彼と共に読者の方も成長してきました。つまり、それだけ漫画の読者層の年齢が上がったということでもあり、嬉しく思っています。
「島耕作」は、最初は「オフィスラブ」からスタートしました。連載用に考えた作品ではなく、読み切りで始まり、評判がよかったのでシリーズとなりました。そのシリーズも最初は色々な女性とラブアフェアがあるといった内容でしたが、次第にもっと本格的なビジネスマンを書きたくなり、だんだんと今の「島耕作」に変わっていったんです。最初のイメージが強いので、島耕作の前には常に女性が入れ替わり立ち替わり現れるというイメージがあるのですが、実はそうでもないと思うのですよ。

漫画の世界と現実の世界が交錯する

0811_1_3.jpg
HILLS CAST収録風景

漫画が事実と前後したり、予想が当たるということがあります。自分がその場にいたら、多分こういう判断をするであろうというような事を漫画にしていくと、偶然かもしれませんが、何となく現実もそうなってきたりします。それには僕自身も驚くわけです。
漫画にでてくる情報のとり方は、「こういう事について調べてほしい」というような要望を、私が担当編集者に出すと、彼らが資料を持って来てくれる。そして「僕はこういう人に会って話が聞きたい」という事を編集者にリクエストすると、その人に会うためのセッティングを彼らがしてくれるんです。そのような方法で取材をすすめています。
合併、M&Aなど色々な話を描きましたが、それに似た話もどんどん現実に出くる。逆に今実際に起こっている、経済的な事件や出来事を参考にしながら描いているので、本当に現実と重なったり、漫画の方が現実の先をいくという事があるんでしょうね。

プロフール

1947年9月9日生まれ。山口県出身。早稲田大学法学部卒業。松下電器産業販売助成部に勤務。同社を退職後、1974年に漫画家としてデビュー。1985年に『人間交差点』で第30回小学館漫画賞一般向け部門、1991年には『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞一般部門を受賞。2000年には『黄昏流星群』で第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を、同作では2003年に第32回日本漫画協会賞大賞など数々の賞を受賞した。2007年にはその功績が認められ、紫綬褒章を受章する。その他の代表作に『加治隆介の議』『ハロー張りネズミ』など。1983年から始まった代表作「島耕作」シリーズは、2008年に社長就任を迎え、さらなる飛躍のときを迎えている。