HILLS CAST
“東京をおもしろくするアイデア”を持ったゲストをお迎えしてお届けする「HILLS CAST」は、J-WAVEのラジオ番組「森ビル presents 東京コンシェルジュ」内で放送していた森ビルのラジオCMです。
※掲載内容は、取材・放送時点のものです。
政治と秋刀魚、そして、東京の話(第2回)
2008年09月10日
今月のゲスト:コロンビア大学教授 ジェラルド・カーティスさん

最初の訪日から、45年。日本政治を現場から研究し、いまや、歴代首相、そして、オバマ大統領候補まで、彼の意見には耳を傾ける。カーティス教授の語る、日本の政治と日本人、そして、ベストセラー『政治と秋刀魚』。
第2回 意識されない日本のよさを大切に

日本には、日本人だからこそあまり意識しない日本のよさ、美しさ、素晴らしさがあると思います。例えば、例外もありますが、日本人は謙虚で謙遜をするんですね。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という、偉くなればなるほどより謙虚になる、ということわざがありますが、これは素晴らしいことですよね。僕はそういう人たちをたくさん知っています。偉くなり、「いやあ、自分はそんなに偉くない。周りで支えてくれている人たちのおかげです」と言うのです。でもそれは謙虚であるということをみんな分かっているから、立派だなと思うんです。それが、価値観が変わり「ああ、そうですか、じゃあ、あなたは本当にラッキーだね」と言われたらね、謙虚でなくなるのですね。
アメリカでは「私も何もできません、このような重要なポストを大臣として受けることになったのは、本当に自分には自信がないのですが、支えてくれている人たちが多いので、何とかなると思います」なんてことを言ったら、「早く辞めろ」となるんですよね。それが、日本では立派なんですよ。私は、そういう日本の価値観が美しくて好きなんです。1つの例ですが。あとは共同体意識、あるいは言葉そのもの、日本語という言葉は非常に美しいですよね。まろやかで、リズムがあって、そして表現力がすごくあるんです。
進化する文化・意思疎通

どの文化も、やはり進化していくし、進化しないといけない。ですから、今の日本の文化は戦前と違う面もたくさんあるし、明治ともまた違う。明治はまた徳川とも違っています。謙虚ではあるけれど、やはり自分の意見や考え方をもっとストレートに話すことは、グローバル化されている今の世の中では必要なことです。発信力や発言力がないと通用しないんですね。日本国内だったら、相手の顔を見てしゃべり、発言をするので、お互いにある程度分かるし、言葉を使わなくても意思疎通ができますが、外国人と話す時や、外国に行って日本のことを説明する時は、やっぱりもっとストレートに話さないといけない。
ただ問題は、アメリカ人と話をする時ですね。アメリカにも何というか、話をする時の暗黙のルールがあるんです。そういうことを知らないで、ただアメリカ人のように言いたいことを言おうとすると、ものすごく無礼になってしまうし、反感を呼びます。だからあまり無理してアメリカ人と想像するような態度を取らず、日本のよさを守りながら、もっと自分の意見を言うといいと思うんですよ。そしてやっぱり日本は、情報を収集するのは上手なのですが、あまり発信をしない。それこそ、特に政府や、財界、経済界も日本のことをもっと発信する必要があると僕は思います。
タマネギのような国“日本”
私は、日本のことは理解できないことはないと思います。ほとんど100%の日本人が「日本はユニークだ」と思っていることがユニークだと思うんです。もちろん、他の文化と違うものを持っている、しかし、どの国もそうなんですね。多分このユニークさといえば、この世で一番ユニークな国はアメリカですよね。政治制度も、極端な資本主義も、他の国にないものがあります。だから僕は、日本がユニークだと思ったことはない。違うところは面白いけれど、人間だから、理解できないことはないはずで、理解できないのは、自分に理解する能力が足りないということだと思うのです。じゃあどうしたら理解できるか。努力すれば理解できるのです。外国人が、この非常に洗練された、昔からある文化の中で行動している人たちのことを理解するのは大変ですよ。でも努力さえすればある程度理解はできる、僕はそう思っている。タマネギの皮を取ると、また中にもう1つ皮があるでしょう。さらに取ると、またあるでしょう。取れば取るほど、また深くはえていて、また取らなければならない、だから退屈しない。日本はそういう国なんです。
プロフール
コロンビア大学教授
1940年ニューヨーク生まれ。1962年ニュー・メキシコ大学卒業。1964年コロンビア大学修士課程終了。 1969年同大学博士号取得、1968年からコロンビア大学で教鞭をとり、現在コロンビア大学政治学教授、早稲田大学客員教授。1973年から91年まで、コロンビア大学東アジア研究所長を12年間務める。慶応大学、政策研究大学院大学、コレージュ・ド・フランス、シンガポール大学など客員教授を歴任。中日・東京新聞の客員及びコラムニストのほか、新聞、テレビなど内外のマスコミで活躍。
三極委員会委員、米外交評会委員、米日財団理事。大正正芳記念賞、中日新聞特別功労賞、国際交流基金賞、旭日重光賞を受賞。主な著書に『代議士の誕生』、『日本型政治の本質』、『日本政治をどう見るか』、『永田町政治の興亡』、『政治と秋刀魚』など。